「ボック(4分の1リットル入りのビールのコップ)を一つ」と彼は注文し、同時に書くもの一式を持って来てくれと頼んだ。障害にぶち当たったときのこの解決法は、彼がかつて手を染めていたあるいかがわしい仕事の名残りであった。他の場合であれば、こんな危険な方法を取ることに躊躇したであろうが、今は急を要するときだったし、他に頼る当てもなかった……。
給仕が頼んだものを持って来てくれるや否や、彼はそこからインスピレーションを得ようとするかのようにビールを一気に飲み干し、ペンを持つと、達筆とは言えないものの、出来るだけ綺麗な字でこう書いた。
『親愛なる子爵殿、
ピケのゲームで借りた百フランをお返しする。リベンジ・マッチはいつにしようか?
君の友、ヴァロルセイ』
この手紙を書きあげた後、彼はそれを三度読み返した。社交界で『最高にシック』と言われる人々が金を返すときこんな言葉の使い方をするものかどうか非常に不安だったのだ。正直なところ自信はなかった……。下書きでは『ベツィークのゲーム(二人でするカードゲーム)で』としていたのだが、清書の段階で『ピケ』に変えた。その方が貴族の好むゲームに思えたからである。
「そんなこと、別にいいや!」と彼は自分に向かって言った。「そう細かいことを気にする奴なんかいないって!」
インクが乾くのを待ってから紙を折り畳み、封筒に滑り込ませた。その際自分の古ぼけた財布から百フラン札を一枚取り出して同封した。それから封筒に宛名を書いた。
『ド・コラルト様、持参便』
それが終わると、彼は代金を払い、レストラン・ブレバンまでひとっ走りした。門の前でぶらぶらしている二人の給仕をつかまえると、封筒を見せた。
「この名前の主を知っていますか?」と彼は丁寧に尋ねた。「おたくの店から出てきた紳士がこの手紙を落とされたんです。その方にお渡ししようと追いかけたのですが、追いつくことが出来なかったんで……」
二人の給仕は宛名を読んだ。
「コラルト、ねぇ、心当たりは一人しかいないね……常連じゃないけど、ときどき来てるようだがね……」
「で、どこにお住まいですかね?」
「なんでそんなことを?」9.25
給仕が頼んだものを持って来てくれるや否や、彼はそこからインスピレーションを得ようとするかのようにビールを一気に飲み干し、ペンを持つと、達筆とは言えないものの、出来るだけ綺麗な字でこう書いた。
『親愛なる子爵殿、
ピケのゲームで借りた百フランをお返しする。リベンジ・マッチはいつにしようか?
君の友、ヴァロルセイ』
この手紙を書きあげた後、彼はそれを三度読み返した。社交界で『最高にシック』と言われる人々が金を返すときこんな言葉の使い方をするものかどうか非常に不安だったのだ。正直なところ自信はなかった……。下書きでは『ベツィークのゲーム(二人でするカードゲーム)で』としていたのだが、清書の段階で『ピケ』に変えた。その方が貴族の好むゲームに思えたからである。
「そんなこと、別にいいや!」と彼は自分に向かって言った。「そう細かいことを気にする奴なんかいないって!」
インクが乾くのを待ってから紙を折り畳み、封筒に滑り込ませた。その際自分の古ぼけた財布から百フラン札を一枚取り出して同封した。それから封筒に宛名を書いた。
『ド・コラルト様、持参便』
それが終わると、彼は代金を払い、レストラン・ブレバンまでひとっ走りした。門の前でぶらぶらしている二人の給仕をつかまえると、封筒を見せた。
「この名前の主を知っていますか?」と彼は丁寧に尋ねた。「おたくの店から出てきた紳士がこの手紙を落とされたんです。その方にお渡ししようと追いかけたのですが、追いつくことが出来なかったんで……」
二人の給仕は宛名を読んだ。
「コラルト、ねぇ、心当たりは一人しかいないね……常連じゃないけど、ときどき来てるようだがね……」
「で、どこにお住まいですかね?」
「なんでそんなことを?」9.25
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