彼女は言葉を切った。これから口にしようとしていることが恐ろしくなったからではなく、疲弊してしまい息が切れたのだった。彼女はしばし大きく息を吸っていたが、やがて声を落として言った。
「それに、あの子をここに送り込んだ人間は冷静に行動せよと命じたに違いないわ。落ち着いて慎重に、と……確かに最初はそうだったわ。最後の方になって、思いがけないことを告げられてからよ、あの子が自制心をなくしてしまったのは。私の兄の何百万という遺産が自分の手に入らないと聞かされて、あの子は頭がおかしくなってしまったのよ。ああ、お金って人の運命を変えてしまう呪われたものね!」
このときの彼女は、自分の舘でバカラのテーブルを囲む賭け事師たちが全財産を失うのを冷ややかに眺めていた自分のことを忘れてしまっていた。ウィルキーからの金の無心があることを知りながらも賭け金入れの箱が軽いことに悩んでいた彼女は、賭け事師たちが集う夜、からかい口調で彼らの射幸心を焚き付けていたものだった。彼女こそ、『時流に乗って』いた女ではなかったのか。そうしなければならなかったのだ。上流階級の遊び人たちの習いに従うことが必要だったのではなかったか? 彼女の常連客の一人にこんなことを言ったこともあった。『確か、今月末に貴方のお父様からお金を受け取ることになっていたのじゃありませんでした?』 それから、ある男が別の男にこう言っているのを聞いたとき彼女は笑っていたのではなかったか? 『お袋に頼むのはこれで三度目だよ、もう破産だ』 『葬儀屋は強情者には特別な執達吏を付ける必要があるね』 こんな台詞を吐くのは気が利いているし、もっと気が利いているのは、こういうのを思いつくことだ。何故なら、これは高慢な精神を物語るものであるし、偏見に囚われない自由さをブルジョワ階級が持っていることを示すからだ……。
こういったことを今のマダム・ダルジュレは忘れていた……。
「ウィルキーに入れ知恵した人間は」と彼女は言葉を続けた。「裁判による方法を取らせようとしたのよ。あの子に民法からある条文を書き写すよう命じたりしたんですもの。このことだけを見ても、その男が法律に通じた実務家だということが分かるわ」
「どんな実務家だと?」 と男爵は尋ねた。4.8
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