「貴殿は抜け目のない方とお見受けする、モーメジャンさん」と彼は言った。「もし私が破産するようなことにでもなったら、貴殿に頼ることにしましょう……」
パスカルはしおらしく頭を下げたが、心の中は喜びではちきれんばかりであった。ついに敵が彼の仕掛けた罠に飛び込んだのだ……。
「それでは最後にはっきりさせておこう」と侯爵は言った。「その金はいつ手に入りますかね?」
「四時前には必ず」
「男爵のときと同じ目には遭わないと思ってよろしいな?」
「それは勿論でございます。トリゴー氏が貴方様に十万フランを貸してどのような利益がありましょうや? ゼロです。ところが私はそうではありません。貴方様が私にお支払い下さる手数料がそのまま私の保証となりましょう……。金の関わる問題では、侯爵、友人に頼るのはご注意ください。それよりはむしろ高利貸しを頼られた方がましです。破産した人々に話を聞きますと、百人中九十五人がこう答えます。『最悪なのは、こんな窮地に陥ったのは自分の親友が原因だったということです』と」
彼は立ち上がり、暇を告げようとした。そのとき喫煙室のドアが開いて一人の召使が現れ、小声で侯爵に告げた。
「マダム・レオンがサロンにお見えです。ジョドン医師とご一緒に。侯爵にお話しすることがあるとのことで……」
不測の事態に備えていたとは言え、かの恐るべき小間使いの女中の名前を聞いてパスカルは顔色を変えた。
「あの女に見られて正体を見破られたら、一巻の終わりだ……」と彼は思った。
しかし幸いにも、侯爵自身驚いていたので、パスカルが動揺した後すぐに取り繕ったことに気がつかなかった。
「けしからん!」と彼は叫んだ。「五分と静かにしていられぬとはどういうことだ……誰も取り次ぐなと言っておいたではないか」
「そう仰いましても侯爵……」
「もうよい! 言い訳は聞かぬ。その二人は待たせておけ」
召使は下がり、パスカルはサロンを横切って行くことを考えると気が遠くなりそうだった。マダム・レオンの鋭い目をどうやって避ければいいのか……。
ところが助け舟を出したのはド・ヴァロルセイ侯爵だった。たった今到着した訪問客のことなど侯爵は殆ど気にも留めていなかったが、パスカルが入ってきたドアを開けようとしたその瞬間、声を掛けた。
「いや、そちらではなく、こちらをお通りなさい。その方が近いから……」
そして寝室を通り抜け、踊り場までパスカルを案内すると、尊大に手を差し出して言った。
「では後ほど、モーメジャンさん」
勇気のある人々にとっては、危険に曝されているその瞬間よりも、その後、すなわち危うく危険を逃れた直後の方が恐怖を大きく感じるものだ。ド・ヴァロルセイ侯爵邸の階段を降りながら、パスカルは冷や汗でぐっしょり濡れた額をハンカチで拭った。
「ああ……危ないところだった!」と彼は思っていた。10.5
パスカルはしおらしく頭を下げたが、心の中は喜びではちきれんばかりであった。ついに敵が彼の仕掛けた罠に飛び込んだのだ……。
「それでは最後にはっきりさせておこう」と侯爵は言った。「その金はいつ手に入りますかね?」
「四時前には必ず」
「男爵のときと同じ目には遭わないと思ってよろしいな?」
「それは勿論でございます。トリゴー氏が貴方様に十万フランを貸してどのような利益がありましょうや? ゼロです。ところが私はそうではありません。貴方様が私にお支払い下さる手数料がそのまま私の保証となりましょう……。金の関わる問題では、侯爵、友人に頼るのはご注意ください。それよりはむしろ高利貸しを頼られた方がましです。破産した人々に話を聞きますと、百人中九十五人がこう答えます。『最悪なのは、こんな窮地に陥ったのは自分の親友が原因だったということです』と」
彼は立ち上がり、暇を告げようとした。そのとき喫煙室のドアが開いて一人の召使が現れ、小声で侯爵に告げた。
「マダム・レオンがサロンにお見えです。ジョドン医師とご一緒に。侯爵にお話しすることがあるとのことで……」
不測の事態に備えていたとは言え、かの恐るべき小間使いの女中の名前を聞いてパスカルは顔色を変えた。
「あの女に見られて正体を見破られたら、一巻の終わりだ……」と彼は思った。
しかし幸いにも、侯爵自身驚いていたので、パスカルが動揺した後すぐに取り繕ったことに気がつかなかった。
「けしからん!」と彼は叫んだ。「五分と静かにしていられぬとはどういうことだ……誰も取り次ぐなと言っておいたではないか」
「そう仰いましても侯爵……」
「もうよい! 言い訳は聞かぬ。その二人は待たせておけ」
召使は下がり、パスカルはサロンを横切って行くことを考えると気が遠くなりそうだった。マダム・レオンの鋭い目をどうやって避ければいいのか……。
ところが助け舟を出したのはド・ヴァロルセイ侯爵だった。たった今到着した訪問客のことなど侯爵は殆ど気にも留めていなかったが、パスカルが入ってきたドアを開けようとしたその瞬間、声を掛けた。
「いや、そちらではなく、こちらをお通りなさい。その方が近いから……」
そして寝室を通り抜け、踊り場までパスカルを案内すると、尊大に手を差し出して言った。
「では後ほど、モーメジャンさん」
勇気のある人々にとっては、危険に曝されているその瞬間よりも、その後、すなわち危うく危険を逃れた直後の方が恐怖を大きく感じるものだ。ド・ヴァロルセイ侯爵邸の階段を降りながら、パスカルは冷や汗でぐっしょり濡れた額をハンカチで拭った。
「ああ……危ないところだった!」と彼は思っていた。10.5
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます