エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

1-XXI-10

2022-07-02 09:43:53 | 地獄の生活

こうなれば後は、マルグリット嬢が出発する際の状況を整理するだけだった。彼女は見事なダイヤモンドをいくつかと高価な宝石類を所有していた。それらを持って行くべきか?

「それらは確かに私のものです」と彼女は言った。「でも、泥棒の疑いをかけられた後では、それらを持って行く気にはなれません。それで判事様、私が常日頃身に着けているものを除いて、あなた様にそれらをお預けしたいのです。後日、裁判所が私に返還を決定したら、そのときは私の手に戻ることになるでしょう。恥ずかしげもなく言ってしまえば、そうなれば嬉しく思います」

治安判事はマルグリット嬢の当座の生活費や資金のことを気遣った。

「あぁ、お金なら持っています」と彼女は答えた。「ド・シャルース様は大層気前の良い方でしたし、私はと言えば、極めて質素な趣味です。この六か月足らずの間に、伯爵が私の身だしなみ用にと下さったお金の中から八千フラン以上が溜まっています。一年以上はそれで暮らせると思います」

そこで治安判事は彼女に法律的なことを説明をした。裁判所は、故ド・シャルース氏が遺した莫大な遺産の相続人は今のところ確認していないものの、そのうちのいくらかはおそらく彼女に支給するという決定をくだすと思われる。故伯爵が彼女の父親であるか否かは問題でなく、事実上彼女の保護者だったのであり、彼女は未だ後見を解除されていないのであるから、法律上は未成年とみなされる、と。それ故、民法三百六十七条を援用することが適当であろう。それには次のように書かれてある。

『事実上の保護者が被保護者を養子とすることなく死亡した場合、その被保護者が成年に達するまでその生存に必要な費用が支給される。その額及び種類については協議もしくは法の定めるところにより決定されるものとする』

「それなら尚のこと」とマルグリット嬢は言った。「私の装飾品類は差し出さなくてはなりませんわね」

後は、今後どのようにしてマルグリット嬢から治安判事に近況を伝えたらよいか、を決めるだけだった。二人はいろいろと話し合った結果、将軍夫妻の厳しい監視の目をくぐる通信手段を考え出した。 

「さぁそれでは」と治安判事は言った。「早く部屋にお戻りなさい……ド・フォンデージ夫人が何を考えているか分かりませんからね」

しかしマルグリット嬢には、もう一つだけ尋ねることがあった。ド・シャルース伯爵は小さな革表紙の手帳を持っていて、そこに連絡先の住所を書き込むのを彼女はしょっちゅう見ていた。フォルチュナ氏の住所もそこにあるに違いない。7.2


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