フォルチュナ氏が部下と共に食事をするのに選んだテーブルは店先であった。そしてお決まりの卵とフライドポテト添えビーフステーキの食事を、一人はほんのおざなりに口に運ぶ程度、もう一人は遭難者のような食べっぷりであった。その間ずっと二人はダルジュレ邸の入口を監視していた。
マダム・ダルジュレが客を迎えるのは土曜日であり、壮大な馬車の列が並んでいるのは彼女の屋敷に来た客であることにもシュパンは気がついた。フォルチュナ氏の横に立っているのは店の主人で、このような立派な身なりの紳士が自分の話に耳を傾けてくれることに大喜びになり、まるで暇を持て余している店主のように、得意気に饒舌を奮い、彼の知っている客の名前をペラペラと並べ立てていた。それはかなりの数に上った。というのは、マダム・ダルジュレの邸でゲームが行われる夜、御者たちが喉を潤しに来るのはここだったからだ。
このようにして名前が挙がったのは、二頭立てのフェートンに乗って到着したド・コラルト子爵、更に徒歩で到着したトリゴー男爵だった。彼は健康の為と称して、いつも汗をかきながら歩き、息を切らせたアザラシのようだった。フォルチュナ氏はこの名前を聞いて眉根を寄せて考えていたが、何も思い出すものはなかった。
店の主人は更に、マダム・ダルジュレは二時半か三時以降にしか外出しないこと、そして常に馬車に乗って出かける、と二人に教えた。この二番目の情報はシュパンを不安にさせた。店の主人が他のテーブルに接客のため離れていったとき、彼はフォルチュナ氏に尋ねた。
「今の、お聞きになりましたか、旦那? どうやって馬車の後をつけるんで?」
「別の馬車で、に決まっているだろ!」
「分っかりやした。簡単なことっすね……けど、もっと難しいのは三十歩離れたところから、こっちに背中を向けてる人の顔を見分けなくちゃならないことです……この御婦人の目を見なくちゃいけないでしょ。彼女が何を見ているか、どんな様子で見ているかを知るためには……」
これは難問のように見えたが、フォルチュナ氏は平然としていた。
「それは心配ないよ、ヴィクトール」彼は答えた。「今のような状況で母親が息子を一目見ようとするときには、速駆けしている馬車の上からちらりと見るだけじゃない。よく見るために馬車から降りるに違いない。そして彼の横を通るようにする。彼に触れることもできるぐらいの距離で……だからお前の仕事は、彼女が馬車から降りたらすぐお前も降りられるようにしておくことだ。くれぐれも近づき過ぎないように。もし今日上手くいかなくても、明日、あるいは明後日成功すればそれでいいんだ……大事なのは辛抱強くやることだ」1.6
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