彼女は首を振った。
「私の出生を記載している怪しげな証書によりますと」と彼女は答えた。「私の年齢は確かに十八歳ですけれど、この身に降りかかった苦労から言いますと、判事様、頭に白髪を置いていらっしゃるあなた様よりも私の方が年を経ているのではないかと思いますわ。不幸な者は若い時がありません。苦労の数だけ年を取るのです。もしあなた様の仰る経験というものが失望、善悪の知識、誰も何物にも頼らないことなどを意味しているのでしたら、年は若くても私の経験はあなた様のものにひけを取りません……」
彼女は言いさした。躊躇し、それから突然心を決め、叫んだ。
「でも、あなた様からのご質問をお待ちするまでもございませんわ!それは誠実なことでも立派なことでもありません。ああ、あなた様に分かって頂けたなら!忠告をお願いする者は、まず正直でなければなりません……私、ここに自分一人しかいないかのようにすべてをお話します。今まで誰も知らなかったこと、パスカルでさえ知らないことをお話します。私には王侯のような贅沢に囲まれていた過去があります。極貧の過去もあります……でも私には隠さねばならないことは何もありません。もし私が赤面することがあったら、それは他の人のためで、自分のためではありません!」
おそらく彼女は長年胸に溜めていた感情を吐露したいという強い衝動に身を任せることにしたのかもしれない。自分でもはっきりとは意識せぬながら、天変地異のために生じた底知れぬ断崖のように自分の人生に深淵がぽっかり穴を空けたこの瞬間、自分の良心以外に相談相手を今まで持たなかった彼女が、誰か生きた人間に聞いて貰いたいと思ったのかもしれない。彼女は興奮のあまり、判事の驚きに気がつかず、彼の呟いた言葉も聞いていなかった。彼女は真っ直ぐに身を起こし、記憶を呼び起こそうとするかのように片手を額の上に持ってくると、直截な調子で語り始めた。
「思い出す限り最初の記憶は高い壁に囲まれた狭い中庭です。窓のない黒い冷たい壁で、あまりに高いのでその頂上が見えなかったほどでした……。夏には正午頃に太陽が射しこんで隅っこの石のベンチに日が当たっていましたが、冬は全然……。中央には五、六本の木がありましたが、か細く苔むしていて、春になると黄色っぽい葉を十枚ばかりつける程度でした。この中庭に三歳から八歳までの女の子が三十人ほどいました。皆茶色の服を着て、肩に青い三角のショールを掛け、週日は青い帽子を被り、日曜は白い帽子を被っていました。それに毛織の靴下、底の厚い靴に首から大きな錫の十字架のついた黒いリボンを掛けていました。私たちの周りには物静かで陰気な修道女たちがいて、幅の広い袖の中で手を交差させ、頭巾の下の顔は青白く、柘植の大きなロザリオに銅のメダルを掛け、歩くときには囚人の鎖のようにそれらを鳴らすのです……。
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