「で、その妹様は生きているか死んでいるかも分からぬのですか?」
「分からないのです!ですが、お待ちください……私正直にお答えするとお約束しましたので…・・・昨日シャルース伯爵が受け取った手紙、伯爵の死の引き金になったあの手紙ですけれど、あれは御妹様からのものに違いないという気がします。その方しかあり得ないと思いますの。でなければ、あなた様が発見なさったあの手紙……書き物机の秘密の場所に他の思い出の品と一緒に隠してあった……あの手紙の主のどちらかだという気がします」
「で、そのもう一人の人というのが誰か、貴女は知っていますか?」
マルグリット嬢は答えなかったので、判事はそれ以上追及せず先を続けた。
「ところで娘さん、貴女は一体どういう方です?」
彼女は苦痛に満ちた諦めの身振りをし、苦しそうに言った。
「分からないのでございます。もしかしたら私はシャルース伯爵の娘なのかもしれません。私がそう思っていないと申し上げたら嘘になります。ええ、私はそう信じています。でもやっぱり、そうではないのかも……。ときどき『そうよ、そうに違いないわ』と思う日があります。そんなときは伯爵の首に飛びつきたくなります。別の日には『いいえ違うわ。そんなことある筈がない』と思います……そんなときは伯爵を殆ど憎んだりします。それに、伯爵は何も言いません。少なくとも肯定的なことは何も。初めて会ったとき、今から六年前ですけれど、伯爵が自分のことを『お父様』と呼ぶな、と私に禁じられたその言い方から、私が何を聞いても答えてはくださらぬだろうと分かりました……」
もしも世の中に子供っぽい馬鹿げた好奇心とは全く無縁の人間がいるとするなら、それは自分の時間を細分して隣人の利益のために充てることを義務付けられている男であろう。治安判事がそうであった。その職業柄彼は、家庭の不和、隣人の苦情、中傷、泣き言、愚かな非難の応酬、卑劣極まりない誹謗、胸のむかつくような揉め事、ライバルを貶めようと果てしなく繰り返される繰り言など、を日がな括りつけられたように椅子に座ったまま聞かされるのである……。
しかし、マルグリット嬢の話を聞くと、その奇妙さに彼の心は捕えられた。謎を前にしたとき人が感じるあの不安な気持ちを彼は感じていた。
「失礼ながら」と彼は言った。「若さと世間知らずのゆえに貴女は大事なことを見落としておられるのではありませんか。貴女の立場では……」
彼女は身振りで遮り、悲し気な口調で言った。
「いえ、それは違います。私は世間知らずなどではありません……」
この言葉に判事は微笑を隠せなかった。
「娘さん」と彼は言った。「貴女はおいくつですか……十八歳ぐらいですか?」3.22
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