エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-IX-17

2023-11-01 15:23:22 | 地獄の生活
ド・コラルト子爵は手早く手紙をしたためたようだ。まもなくまた姿を現し、手にした二通の手紙をテーブルの上に投げ出しながら指示を与えた。
「一通は男爵夫人に。奥様自身か、奥様付きの小間使いに直接手渡しする以外誰にも渡すな……返事は貰わなくていい……それからもう一通は書いてある住所に届けて、返事を貰って来るんだ。それを私の書斎のデスクの上に置いておくように。急いで行け」
こう言い捨てて、子爵は入って来たときと同じように、つまり走りながら出て行った。その後すぐ彼の馬車の音が聞こえた。
赤いチョッキの下男、フロランは怒りで真っ赤だった。
「これだよ!」と彼は門番にというよりシュパンに向かって話しかけていた。「だから言ったろ? 男爵夫人に直接手渡し、それかマダム付きの女中に、だってさ。つまりは、こっそり隠れてってことさ。言わずもがなだが、知らぬが仏のご亭主に知られちゃまずいんだ……てわけで、この仕事がやれるのは俺しかいない……」
「そりゃそうっすね、わっかりました。けど」とシュパンは反論を試みた。「もう一通の方は?」
フロランはもう一通の方はまだ調べていなかったので、テーブルからそれを取り上げると、住所を改めた。
「こっちの方は、お前さんに任せてもいいな」と彼は言った。「それに、大きに都合が良いや。この住所はこの近所じゃないからな。しかしまぁ主人ってぇもんは好い気なもんだ。こっちはうまく仕事を按配して、ちょっと時間に空きが出来た、やれやれって思ってたら、いきなりとんでもなく遠くまで使いに行け、だなんて。人の都合も聞かねぇでさ。お前さんが申し出てくれなかったら、こっちは素敵なご婦人との晩餐をふいにしちまうところだったよ……しかし、途中で道草喰うんじゃないぞ。馬車の屋上席を奮発してやるんだからな……。それに、聞いたろ、返事を貰って来なきゃいけないんだ。返事はムリネさんに預けておいてくれ。そしたらムリネさんはお前さんにお使い賃と馬車代六スー、合計一フラン五サンチームを払ってくれるから……まぁ四捨五入できっかり二十スー硬貨一枚だな。それ以外に、手紙を届けた先でチップを貰えたとしたら、それは自分のものにしておいていいよ」
「了解っす、旦那! マドレーヌ通りでおいらの返事を待ってる貴婦人のところまでひとっ走りする時間を貰えれば、すぐ行きますよ……じゃ、手紙をください」
「はいよ」 赤いチョッキのフロランは手紙をシュパンに手渡した。
しかし、そこに書かれた住所を一目見たシュパンは顔が真っ青になり、両目はかっと見開かれた。そこにはこう書かれてあった。
『マダム・ポール、タバコ小売商、セーヌ河岸通り』11.1

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