フォルチュナ氏はびくっと身体を震わせた。その名前はド・ヴァロルセイ侯爵が忌まわしい奸計を実行するつもりだと言った際に出た名前だ、ということを彼は思い出した。マルグリット嬢の愛する男がその名誉に泥を塗られたのは、その女性の家でのことであった。しかし彼は内心の驚きを隠し、率直な口調で言った。
「綺麗な名前だな! で、何をしている人なんだい、その人は?」
「そうさね……まぁ何と言うか、遊び暮らしている人ですね……」
フォルチュナ氏は羨ましそうな様子をして見せた。
「そうなのか……あんな家に暮らしてるんだから、さぞ立派に遊び暮らしてるんだろうな……やっぱり綺麗な人なんだろうな?」
「そりゃ好みによるでしょうね……どっちにしてももう若くはないですよ。でも素晴らしい金髪でね。それに色が白い……雪のように白いってやつですよ。おまけに姿も良い。何から何まで高級ずくめときてる。いつも現金で支払うんですよ、全額即金でね」
もはや疑いの余地はなかった。このワイン商が並べ立てる描写は、エルダー通りの館の主人の言葉から連想させる人物にぴったり当てはまった。
フォルチュナ氏はスグリのシロップを飲み終え、五十サンチームをカウンターの上に放り投げた。それから通りを横切り、大胆にもダルジュレ邸の呼び鈴を鳴らした。もし誰かに、何をし、何を言うつもりかと尋ねられたとしたら、彼の正直な答えは『分からない』だったであろう。ただ彼の頭の中ではその目的はしっかり固まっており明確だった。今回の不可解な事件について、たとえどのようなものであろうと何かを掴まずにはおかない、と彼は不屈の闘志を燃やしていた。それに、実際どうやるかは自分の度胸と沈着さに任せることにしていた。一旦勝負が始まれば鋭い観察力がものを言うであろうし、術策には事欠かないことは分かっていた。
「とにもかくにも」と彼は自分に言い聞かせていた。「この女に会わなくては。最初に何を言うかは第一印象次第だ……その後はその場の成り行きに身を任せるのみだ……」
趣味の良いごくシンプルな制服を着た老僕が門を開けに出てきたので、彼は権威をにじませた口調で尋ねた。
「マダム・リア・ダルジュレはおられるかな?」
「マダムは金曜は人とお会いになられません」と老僕は答えた。
フォルチュナ氏は非常に遺憾であるという身振りをした。
「今日中にどうしてもマダムと話をせねばならぬ用事がある……非常に重大な案件だ……私の名刺をお渡し願いたい。さぁこれを。私は公務に携わっている者だ」10.14
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