計算気象予報士の「知のテーパ」

旧名の「こんなの解けるかーっ!?」から改名しました。

温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?

2011年05月02日 | お天気のあれこれ
 そういえば・・・似たような言葉に電磁気学の「電位」がありますね。たまには真面目に気象学的な事も書いてみます・・・。

 まずは、空気塊を断熱的に持ち上げるとどうなるかを考えてみましょう。空気塊を断熱的に鉛直上方に持ち上げると、周囲の気圧が低下するのに伴って膨張します。このため空気塊自身の温度も低下していきます。この時に重要になるのが、周囲の大気の温度状態です。図1のように3つのパターンを考えてみましょう。空気塊が地上→1km→2km→3kmと上昇するのに伴って、空気塊自身の温度は30℃→20℃→10℃→0℃と低下していきます。


図1.大気の安定性


 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に高い場合(a)は、空気塊は周囲よりも低温となるため、空気塊はもとの位置(高度)まで自然に戻っていきます。このような大気の状態を安定と言います。安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても自然にもとの状態に戻ると言えます。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に等しい場合(b)は、空気塊は周囲と同温となるため空気塊は自然にその位置に留まろうとします。このような大気の状態を中立と言います。

 空気塊自身の温度よりも周囲の気温が常に低い場合(c)は、空気塊は周囲よりも高温となるため空気塊はさらに浮力を得て自然にどこまでも浮かび上がっていきます。このような大気の状態を不安定と言います。不安定大気場においては、何らかの要因で空気が持ち上げられたとしても、そのまま空気は上昇を続けるため対流が起こりやすい状態にあると言えます。


図2.大気の安定性と気温減率


 周囲の大気の気温プロファイルを比較してみましょう。図2には、図1の安定、中立、不安定の各パターンにおける周囲の気温の鉛直プロファイルをグラフで示しました。横軸に気温、縦軸に高度をとっています。この図から、気温の鉛直プロファイルの傾きが中立の場合よりも直立に近ければ安定、中立の場合よりも横に傾いていれば不安定と言えます。すなわち、上空に寒気が入るほど、または地上気温が上がるほど、気温の鉛直プロファイルは横に傾きやすく不安定性が強まる、と言えるのです。

 以上の関係を数式で表すと次のようになります。

dT/dz < -Γd (不安定)
dT/dz = -Γd (中 立)
dT/dz > -Γd (安 定)


 ここで、Γd = g / Cp乾燥断熱減率と言います。

 図1で考察したように、空気塊が断熱的に鉛直運動をすると、周囲の気圧が変化する事に伴って膨張や圧縮をするので空気塊自身の温度も変化します。この事から空気塊自身の温度は変化の経路の影響を受けると言えます。しかし、空気塊の挙動は断熱的に行われるため、外界との熱エネルギーの授受は行われておりません。すなわち、空気塊自身が持っている熱エネルギーは常に一定に保存される筈です。このような、変化の経路の影響を受けることなく条件が決まれば一義的に定まるようなパラメータとして、気象学では次式で定義される温位(ポテンシャル温度)を使用します。これは、ある等圧面p上に存在する空気塊を、断熱的に基準気圧面p0にまで持ってきた時の空気塊の温度を表します。ちなみに、温位に近い存在としては、例えば、工業熱力学のエントロピー(dS = dQ / T)を挙げる事ができるかもしれません。

θ = T ( p0 / p ) R/Cp



図3.温位の概念


 ここでは温位の物理的な意味を考えてみましょう。図3には空気塊の断熱的な鉛直運動の際の温度と温位を比較してみたものです。両者の条件は等しいものであると考えています。空気塊が上昇すると、周囲の気圧低下に伴って断熱膨張するため、空気塊自身の温度は低くなっていきます。また、空気塊が下降すると、周囲の気圧上昇に伴って空気塊は断熱圧縮されるため、空気塊自身の温度は上昇します。その一方で、空気塊の一連の挙動は全て断熱変化であるため、外界との間での熱エネルギーの授受はありません。このため空気塊の温位は常に保存されています


図4.大気の安定性と温位減率


 続いて、大気の安定・不安定を温位を用いて考えてみましょう。図2では高度‐温度線図を示しましたが、図4には高度‐温位線図を示してみましょう。中立状態では温位が高度に関わらず一定となり、これより右側に傾けば安定、左に傾けば不安定となります。次に示す温位鉛直方向の温位傾度dθ/dzを考えると、以下のような関係が成立します。

dθ/dz = ( dT/dz + Γd ) ( p0 / p ) R/Cp

dθ/dz < 0 (不安定)
dθ/dz = 0 (中 立)
dθ/dz > 0 (安 定)

 
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