(1)2次元流れの変形・渦度・発散
2次元の流れを考える上で、流体のある微小片に着目すると、この後の変化の仕方は大きく4つのパターンに分類することができます。
ここで、微小片の変形前を灰破線の正方形、変形後を黒実線、また変化に伴って微小片が動く方向を赤矢印で表現しています。
【左上・合流変形】
一方の軸方向に縮む一方、もう一方の軸方向に伸びるような変形です。上の図では微小片に向かって、上下からの流れが合流し、その後左右の両側に広がっています。この場合の横軸(黄緑色)を拡大軸と言います。
【右上・シアー変形】
合流変形が縦横の軸から傾いた形です。上の図では微小片に向かって、左上と右下からの流れが合流し、その後左下と右上の両側に広がっています。この場合の左下から右上に向かう傾斜した軸(黄緑色)が拡大軸になります。
【左下・渦度】
微小片が流れの中で回転するパターンです。上の図では反時計回りに回転しています。これが正の渦度です。また、時計回りに回転する場合は負の渦度となります。
【右下・発散】
微小片が内側から外側に向かって湧き出るように拡大する形です。上の図では赤の矢印が全て外側を向いています。これが正の発散です。一方、赤の矢印が全て内側を向くと、微小片は内側に向かって吸い込まれるように縮小します。これが負の発散(収束)に当たります。
(2)前線形成関数とは
さて「前線」とは、寒気と暖気がぶつかり合う際の境目として現れます。詳しいことは過去の記事「地上天気図の見方・ポイント解説」を御参考下さい。要は、寒気の流れと暖気の流れがぶつかる領域(前線帯)が発生すると、そこでは等温線が帯状に密集します。つまり、温度傾度の大きな帯状の領域が現れるのです。
ここでは、寒暖の度合いを表す指標として「温度」ではなく「温位」を用います。温位については、過去の記事「温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?」で述べています。こちらも併せて御参考下さい。
あらためて「寒気と暖気がぶつかり合う」と言うことは、水平面上では「合流変形」や「シアー変形」を生じることになります。また、この他にも鉛直流の影響や非断熱効果による影響も加わり、明瞭な前線が形成(温位傾度が強化)されます。この温位傾度の指標として用いられるのが「前線形成関数」です。これは等圧面における温位傾度の時間変化で定義されます。
前線形成関数Fは、合流項Fc、シアー項Fs、立ち上がり項Ft、非断熱項Fdの和で表されます。F>0ならば前線は形成・強化され(温位傾度は増大:フロントジェネシス)、F<0ならば前線は衰退・消滅に向かいます(温位傾度は減少:フロントリシス)。
(3)前線形成関数を構成する4要素
上述の通り、前線形成関数Fは「F=Fc+Fs+Ft+Fd」と表されます。そこで、右辺の各項のイメージについて各々述べていきます。
≪合流項:Fc≫
合流項は、流れの「合流変形」に伴う影響を表しています。次の図では「水平面上における流れ場」を考えます。上下から流入した流れが中ほどでぶつかった後、左右両側に抜けていくことを想定しています。従って、拡大軸は横向きとなっています。
この図の上段と下段では等温位線の向きが異なります。上段では下側が暖気、上側が寒気となっており、上下方向に温位傾度を生じています。一方、下段では左側が暖気、右側が寒気となっています。こちらは、左右方向に温位傾度を生じています。
上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左右に抜けていくのに伴って、左側の暖気はより左側に、右側の寒気もより右側に運ばれていきます。このため、等温位線が互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。
≪シアー項:Fs≫
シアー項は、流れの「シアー変形」に伴う影響を表しています。次の図も「水平面上における流れ場」を考えます。先の「合流変形」の流れと本質的には同じものですが、こちらでは拡大軸が傾いているのが特徴です。
この図の上段と下段では等温位線の向きが等しく、下側が暖気、上側が寒気で、上下方向に温位傾度を生じています。また、等温位線に対して、拡大軸が角度α°だけ傾いています。上段では傾斜角α°が45°より小さく、下段では傾斜角α°が45°より大きい点が異なります。
上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が(傾斜しながら)互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左下・右上に抜けていくのに伴って、下側の暖気はより左下側に、上側の寒気もより右上側に運ばれていきます。このため、等温位線が(傾斜しながら)互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。
≪立ち上がり項:Fs≫
立ち上がり項は「鉛直流」に伴う影響を表しています。次の図は「鉛直面上における流れ場」を考えます。等温位線は鉛直方向でも傾きを持っており、「寒」は低温位側、「暖」は高温位側を表しています。次の図ではいずれも下層が低温位側(「寒」)、上層が高温位(「暖」)を想定しています。
上段では、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、鉛直流は左側に行くほど上昇流、右側に行くほど下降流が強まっています。つまり、間接循環の場(寒気側で上昇流、暖気側で下降流)となっています。この場合、下層からの寒気(低温位)移流と上層からの暖気(高温位)移流に伴い、左上から右下にかけて等温位線が互いに近づくため、温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段では鉛直流が左側に行くほど下降流、右側に行くほど上昇流が強まっています。つまり、直接循環の場(寒気側で下降流、暖気側で上昇流)となっています。この場合、温位傾度を弱める方向に働きます(フロントリシス)。
≪非断熱項:Fd≫
非断熱項は非断熱効果に伴う影響を表しています。次の図は一例として、日射に伴う加熱を挙げてみます。次の図も「鉛直面上における流れ場」を考えています。
ここでは、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、図の左側では雲が広がる一方、右側では日射し優勢となっています。左側は雲に覆われるため、加熱がなかなか進まず、温位の分布はそれほど変化しません。一方、右側は日射に伴って加熱が進み、温位が上昇するため、温位傾度も増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
2次元の流れを考える上で、流体のある微小片に着目すると、この後の変化の仕方は大きく4つのパターンに分類することができます。
ここで、微小片の変形前を灰破線の正方形、変形後を黒実線、また変化に伴って微小片が動く方向を赤矢印で表現しています。
【左上・合流変形】
一方の軸方向に縮む一方、もう一方の軸方向に伸びるような変形です。上の図では微小片に向かって、上下からの流れが合流し、その後左右の両側に広がっています。この場合の横軸(黄緑色)を拡大軸と言います。
【右上・シアー変形】
合流変形が縦横の軸から傾いた形です。上の図では微小片に向かって、左上と右下からの流れが合流し、その後左下と右上の両側に広がっています。この場合の左下から右上に向かう傾斜した軸(黄緑色)が拡大軸になります。
【左下・渦度】
微小片が流れの中で回転するパターンです。上の図では反時計回りに回転しています。これが正の渦度です。また、時計回りに回転する場合は負の渦度となります。
【右下・発散】
微小片が内側から外側に向かって湧き出るように拡大する形です。上の図では赤の矢印が全て外側を向いています。これが正の発散です。一方、赤の矢印が全て内側を向くと、微小片は内側に向かって吸い込まれるように縮小します。これが負の発散(収束)に当たります。
(2)前線形成関数とは
さて「前線」とは、寒気と暖気がぶつかり合う際の境目として現れます。詳しいことは過去の記事「地上天気図の見方・ポイント解説」を御参考下さい。要は、寒気の流れと暖気の流れがぶつかる領域(前線帯)が発生すると、そこでは等温線が帯状に密集します。つまり、温度傾度の大きな帯状の領域が現れるのです。
ここでは、寒暖の度合いを表す指標として「温度」ではなく「温位」を用います。温位については、過去の記事「温位=ポテンシャル温度・・・これは一体、何なのか?」で述べています。こちらも併せて御参考下さい。
あらためて「寒気と暖気がぶつかり合う」と言うことは、水平面上では「合流変形」や「シアー変形」を生じることになります。また、この他にも鉛直流の影響や非断熱効果による影響も加わり、明瞭な前線が形成(温位傾度が強化)されます。この温位傾度の指標として用いられるのが「前線形成関数」です。これは等圧面における温位傾度の時間変化で定義されます。
前線形成関数Fは、合流項Fc、シアー項Fs、立ち上がり項Ft、非断熱項Fdの和で表されます。F>0ならば前線は形成・強化され(温位傾度は増大:フロントジェネシス)、F<0ならば前線は衰退・消滅に向かいます(温位傾度は減少:フロントリシス)。
(3)前線形成関数を構成する4要素
上述の通り、前線形成関数Fは「F=Fc+Fs+Ft+Fd」と表されます。そこで、右辺の各項のイメージについて各々述べていきます。
≪合流項:Fc≫
合流項は、流れの「合流変形」に伴う影響を表しています。次の図では「水平面上における流れ場」を考えます。上下から流入した流れが中ほどでぶつかった後、左右両側に抜けていくことを想定しています。従って、拡大軸は横向きとなっています。
この図の上段と下段では等温位線の向きが異なります。上段では下側が暖気、上側が寒気となっており、上下方向に温位傾度を生じています。一方、下段では左側が暖気、右側が寒気となっています。こちらは、左右方向に温位傾度を生じています。
上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左右に抜けていくのに伴って、左側の暖気はより左側に、右側の寒気もより右側に運ばれていきます。このため、等温位線が互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。
≪シアー項:Fs≫
シアー項は、流れの「シアー変形」に伴う影響を表しています。次の図も「水平面上における流れ場」を考えます。先の「合流変形」の流れと本質的には同じものですが、こちらでは拡大軸が傾いているのが特徴です。
この図の上段と下段では等温位線の向きが等しく、下側が暖気、上側が寒気で、上下方向に温位傾度を生じています。また、等温位線に対して、拡大軸が角度α°だけ傾いています。上段では傾斜角α°が45°より小さく、下段では傾斜角α°が45°より大きい点が異なります。
上段の場合、上下の流れが拡大軸に向かうのに伴って、上側からの寒気移流と下側からの暖気移流を生じ、拡大軸の上下にある等温位線が(傾斜しながら)互いに近づいてきます。つまり、拡大軸付近の温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段の場合、上下の流れが拡大軸に沿って左下・右上に抜けていくのに伴って、下側の暖気はより左下側に、上側の寒気もより右上側に運ばれていきます。このため、等温位線が(傾斜しながら)互いに離れて行き、温位傾度は減少します(フロントリシス)。
≪立ち上がり項:Fs≫
立ち上がり項は「鉛直流」に伴う影響を表しています。次の図は「鉛直面上における流れ場」を考えます。等温位線は鉛直方向でも傾きを持っており、「寒」は低温位側、「暖」は高温位側を表しています。次の図ではいずれも下層が低温位側(「寒」)、上層が高温位(「暖」)を想定しています。
上段では、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、鉛直流は左側に行くほど上昇流、右側に行くほど下降流が強まっています。つまり、間接循環の場(寒気側で上昇流、暖気側で下降流)となっています。この場合、下層からの寒気(低温位)移流と上層からの暖気(高温位)移流に伴い、左上から右下にかけて等温位線が互いに近づくため、温位傾度が増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。
下段では鉛直流が左側に行くほど下降流、右側に行くほど上昇流が強まっています。つまり、直接循環の場(寒気側で下降流、暖気側で上昇流)となっています。この場合、温位傾度を弱める方向に働きます(フロントリシス)。
≪非断熱項:Fd≫
非断熱項は非断熱効果に伴う影響を表しています。次の図は一例として、日射に伴う加熱を挙げてみます。次の図も「鉛直面上における流れ場」を考えています。
ここでは、左下から右上にかけて温位が増す分布を想定しています。また、図の左側では雲が広がる一方、右側では日射し優勢となっています。左側は雲に覆われるため、加熱がなかなか進まず、温位の分布はそれほど変化しません。一方、右側は日射に伴って加熱が進み、温位が上昇するため、温位傾度も増大します(黄色の領域:フロントジェネシス)。