今朝も月がきれいだった。
風邪や体調が悪いような少しだけだるいときには、
いろんな角が丸くなるせいか、向こうの世界とつながりやすくなる。
今朝もそういう感じの感覚の朝だった。
ぼんやり起きて空をみると銀の月。朝の月。
こんな早い朝に月をみると思い出すことがある。
私には不思議な思い出や体験がなぜか多い。
これは4歳くらいの時のはなし。
私は顔だけは可愛いが(いや、本当に可愛かったんですよ・笑)
その実、本当にひねた子供だった。
何だか分からないものはないような気がしていて
周りのお子様は「お子様」にしか見えなかった。
だからいつもアウトローでひとりで遊ぶことが多かった。
とにかく彼らとはお話があわなかったんだもの。仕方ない。
まあ、身体も弱かったので、外で遊ぶより
家で本を読んだり、お人形といるほうが楽しかった。
「変わり者」の子供だったので、普通ではない行動パターンがあった。
要は自分勝手、自由気まま、奔放な日々である(笑)
たとえていうなら、小学校のとき、家で作った工作が気に入ったので
それを見せたいがために、それしか持たず学校に行ったり、
あまりに授業がつまらないのでかばんを置き去りに家に帰ってしまい、
行方不明になったと学校中で大騒動になったり、そんな子供だった。
そんな奔放なちびさんはある朝、とても早くに眼が覚めた。
まだ夏が残っている頃だった。
家中が眠っているので、つまらないから外に出ると白い空には月が出ていた。
ぽけーっと空を眺めながら、近くの原っぱまで来ると
朝早くの誰もいないはずのそこに誰かがいる。
一生懸命何かを追っている。
じーっと立ち、それを見ていると何かがこっちに転がってきた。
ボールだ。それも見たことないへんてこな模様のボール。
黒と白の模様がついている。
目の前に来たので拾った。拾ってじいいと眺めていると
知らない間に目の前に誰かが立っていた。
へんてこボールを持ったまま顔を上げると笑顔があった。
たぶん、中学生か高校生くらいのお兄ちゃん。
「ボール、ありがと」おにいちゃんはそう言った。
私はぽいとボールを投げて無表情のまま「変なボール」と言った。
笑顔の少年に対して、どこまでもぶしつけなひねた奴である。
おにいちゃんは笑って、
「そうでしょう?これサッカーボールって言うんだ」と言った。
そういってまたポーン、ポーンとボールを蹴った。
何度かボールは目の前に飛んできた。
その度に拾っては、おにいちゃんに向かってポイ!と投げた。
「お、ありがとう!」
そういってお兄ちゃんは笑って受け取ってボールを蹴り続けた。
そして日が昇る頃、お兄ちゃんは「またね」と行って帰っていった。
次の日、私はまた早く起きると日が昇る前に原っぱへ行った。
居る。あのへんてこボールのお兄ちゃんがボールを蹴っている。
昨日と同じところへ立つと今度はいつの間にかボールが来るのを待っていた。
ボールは飛んできた。急いで拾った。
「お早う!ボール、ありがとう」
お兄ちゃんが駆け寄ってきて笑った。
「どうしてお手て使わないの?」私は言った。
「これはサッカーって言って足だけでやるんだよ」
お兄ちゃんはそういって目の前でポンポンとボールを続けて蹴り上げた。
ボールは落ちない。私はそれが嬉しかった。
お兄ちゃんが最後にぽんと高く蹴ってスポンとその手に受けたとき
たぶん私は笑っていたんだと思う。
「何ちゃんて言うの?」
「レイ」
「そうか、レイちゃんか。これ、一緒にやる?」
お兄ちゃんはそういって私の目の前にボールを置いた。
「いい、こうやって蹴るんだよ」
お兄ちゃんはそういって蹴り方を教えてくれた。
私は少し助走してえい!と蹴った。
ボールは変なとこに飛んでいった。
けれどお兄ちゃんは走って拾ってくれると
「上手い、うまい!」と言ってほめてくれた。
そしてまた私の前にボールを置いた。
その日、私はボールを真っ直ぐ蹴られるようになった。
「そろそろ行かなきゃ」
日が昇る頃おにいちゃんはそうつぶやいてボールを持った。
「また明日も来る?」私は聞いた。
「レイちゃんも来る?」お兄ちゃんが答えた。
「うん」私はそういってバイバイをした。
次の日も、次の日も、次の日も私は早起きをして
日の昇らない原っぱでお兄ちゃんとサッカーをした。楽しかった。
一週間くらいたったある日、お兄ちゃんが淋しげに言った。
まだ日の昇る前だった。
「俺、もう行かなきゃいけないんだ」
「また明日来る?」私はいつものように聞いた。
するとお兄ちゃんは目の前にしゃがんでこういった。
「レイちゃん、ごめんね。
おにいちゃんさ、遠くに行かなきゃいけないんだ。
だから明日の朝からはもうここにこれないんだよ。」
私はのどの奥が急に苦しくなって、もう少しで泣きそうになったが
とても意地っ張りな、いやなガキんちょだったので
両手をぐーっと握り締めて、お兄ちゃんをぎゅっと見つめ答えた。
「ふうん。もうこないのか。」
お兄ちゃんは私のグーの両手に自分の手を添えると
「サッカー、面白かった?」と聞いた。
私はなぜか素直に「うん」と言っていた。
お兄ちゃんは「そうか、良かった」というと、
グーの手を手を引っ張って前に出させると
「ハイ」とサッカーボールを乗せてくれた。
「あげる」
「ボール、くれるの?」
「うん。レイちゃんにあげるよ。お兄ちゃん、持っていけないから」
「どうして?遠いところだから?」
「そう、遠いところだから」
「どのくらい遠いところ?」
私は聞いた。
「あのくらい遠いところかなぁ」
そういっておにいちゃんは指を指した。
指差した向こうには朝の月が輝いていた。
一瞬、すごく遠いなと思ったけど、私は考えた。考えてこういった。
「でも見えるよ」
お兄ちゃんは一瞬びっくりして、そしていつもの笑顔で笑った。
「そうだね。遠いけど見えるね」
それから、おにいちゃんはもう行かなくっちゃといって、
私の頭をなでてくれ、バイバイと言って消えた。
そう、いつものように帰ったのでなく「消えた」のだ。
でも私はその時、それを不思議ともなんとも思わなかった。
黙っていたら涙が出そうだったので、もらったボールを蹴る事にした。
えい、えい!と力任せに蹴っているといつの間にか日が昇って
周りは明るくなっていた。
私の蹴ったへなちょこボールは転がって知らないおばちゃんの足に当たった。
私は走っていって、ボールを拾った。
するとおばちゃんが声をかけてきた。
一瞬おこられるのかとびくっとしたが違った。
おばちゃんはどこか聞いたことのある優しい声で言った。
「おじょうちゃん、おばちゃんにそのボール見せてくれないかしら?」
変なおばちゃんだと思ったが、優しい声だったので、
ボールをそおっと持ち上げて見せてあげた。
おばちゃんはそのボールを私の手の上から握ってあちこち眺め
「ああ、やっぱり」と言い、そして涙をつーっと流した。
私はびっくりしてボールを持った手を引っ込めた。
おばちゃんは涙をためた眼で私をみると言った。
「おじょうちゃん、このボールね、おばちゃん、ずっと探してたの。
うちのね、お兄ちゃんのボールなの。返してくれるかな?」
私はボールを抱えて首を振った。
おばちゃんはしゃがみこんで私を見るともう一度言った。
「あのね、このボールね、おばちゃんのところのお兄ちゃんの宝物なの。
そのおにいちゃんね、この前、天国に行っちゃったの。
それでね、天国に行くとき、そのボールがなくなっちゃったって
ずうっといっていたから、もって行ってあげたいの。
だからおばちゃんに返してもらえないかな?」
そう優しい声で言った。
私は「死」と言うものにものすごく魅入られていた子供だった。
だから私は聞いた。
「おにいちゃん、死んじゃったの?」
死んじゃったら、もうここで会えない。そう思った。
「そう、死んじゃったの」おばちゃんはそういってまた涙を流した。
私はボールをぎゅっと抱えたまま言った。
「でも、これおにいちゃんがくれたんだもん」
おばちゃんは不思議な顔をして、いつ?どこで?と聞いた。
私は一緒にサッカーをした日々の事を話した。
おばちゃんは何度も何度もうなずきながら、
涙を流しながら私の話を聞いていた。
「どこに?どこに行くって言っていたの?」おばちゃんが聞いた。
「お月様のところ」私は答えた。
「遠いねえ」おばちゃんは言った。
私はまた考えて、言った。
「でも見えるところだよ」
おばちゃんはそういうと少しだけ笑って
「そうねえ、ホントね」と言った。
「ハイ」わたしはおばちゃんにボールを押し付けた。
「いいの?」おばちゃんは言った。
「うん、おばちゃんの」私は返事した。
おばちゃんはボールを大事そうに抱えると
「ありがとうね」そういって帰って行った。
今でもサッカーボールを見ると思い出す、不思議な思い出。
名前も知らない優しい瞳のサッカーボールのおにいちゃん。
月に帰ってしまったおにいちゃん。
いまはどこで何をしているだろう?
もしかしたら生まれ変わって今もサッカーボールを追いかけているのかな?
またいつか会えるだろうか?
会えるといいな。
月とサッカーと少年。
不思議な不思議な本当のお話です。
風邪や体調が悪いような少しだけだるいときには、
いろんな角が丸くなるせいか、向こうの世界とつながりやすくなる。
今朝もそういう感じの感覚の朝だった。
ぼんやり起きて空をみると銀の月。朝の月。
こんな早い朝に月をみると思い出すことがある。
私には不思議な思い出や体験がなぜか多い。
これは4歳くらいの時のはなし。
私は顔だけは可愛いが(いや、本当に可愛かったんですよ・笑)
その実、本当にひねた子供だった。
何だか分からないものはないような気がしていて
周りのお子様は「お子様」にしか見えなかった。
だからいつもアウトローでひとりで遊ぶことが多かった。
とにかく彼らとはお話があわなかったんだもの。仕方ない。
まあ、身体も弱かったので、外で遊ぶより
家で本を読んだり、お人形といるほうが楽しかった。
「変わり者」の子供だったので、普通ではない行動パターンがあった。
要は自分勝手、自由気まま、奔放な日々である(笑)
たとえていうなら、小学校のとき、家で作った工作が気に入ったので
それを見せたいがために、それしか持たず学校に行ったり、
あまりに授業がつまらないのでかばんを置き去りに家に帰ってしまい、
行方不明になったと学校中で大騒動になったり、そんな子供だった。
そんな奔放なちびさんはある朝、とても早くに眼が覚めた。
まだ夏が残っている頃だった。
家中が眠っているので、つまらないから外に出ると白い空には月が出ていた。
ぽけーっと空を眺めながら、近くの原っぱまで来ると
朝早くの誰もいないはずのそこに誰かがいる。
一生懸命何かを追っている。
じーっと立ち、それを見ていると何かがこっちに転がってきた。
ボールだ。それも見たことないへんてこな模様のボール。
黒と白の模様がついている。
目の前に来たので拾った。拾ってじいいと眺めていると
知らない間に目の前に誰かが立っていた。
へんてこボールを持ったまま顔を上げると笑顔があった。
たぶん、中学生か高校生くらいのお兄ちゃん。
「ボール、ありがと」おにいちゃんはそう言った。
私はぽいとボールを投げて無表情のまま「変なボール」と言った。
笑顔の少年に対して、どこまでもぶしつけなひねた奴である。
おにいちゃんは笑って、
「そうでしょう?これサッカーボールって言うんだ」と言った。
そういってまたポーン、ポーンとボールを蹴った。
何度かボールは目の前に飛んできた。
その度に拾っては、おにいちゃんに向かってポイ!と投げた。
「お、ありがとう!」
そういってお兄ちゃんは笑って受け取ってボールを蹴り続けた。
そして日が昇る頃、お兄ちゃんは「またね」と行って帰っていった。
次の日、私はまた早く起きると日が昇る前に原っぱへ行った。
居る。あのへんてこボールのお兄ちゃんがボールを蹴っている。
昨日と同じところへ立つと今度はいつの間にかボールが来るのを待っていた。
ボールは飛んできた。急いで拾った。
「お早う!ボール、ありがとう」
お兄ちゃんが駆け寄ってきて笑った。
「どうしてお手て使わないの?」私は言った。
「これはサッカーって言って足だけでやるんだよ」
お兄ちゃんはそういって目の前でポンポンとボールを続けて蹴り上げた。
ボールは落ちない。私はそれが嬉しかった。
お兄ちゃんが最後にぽんと高く蹴ってスポンとその手に受けたとき
たぶん私は笑っていたんだと思う。
「何ちゃんて言うの?」
「レイ」
「そうか、レイちゃんか。これ、一緒にやる?」
お兄ちゃんはそういって私の目の前にボールを置いた。
「いい、こうやって蹴るんだよ」
お兄ちゃんはそういって蹴り方を教えてくれた。
私は少し助走してえい!と蹴った。
ボールは変なとこに飛んでいった。
けれどお兄ちゃんは走って拾ってくれると
「上手い、うまい!」と言ってほめてくれた。
そしてまた私の前にボールを置いた。
その日、私はボールを真っ直ぐ蹴られるようになった。
「そろそろ行かなきゃ」
日が昇る頃おにいちゃんはそうつぶやいてボールを持った。
「また明日も来る?」私は聞いた。
「レイちゃんも来る?」お兄ちゃんが答えた。
「うん」私はそういってバイバイをした。
次の日も、次の日も、次の日も私は早起きをして
日の昇らない原っぱでお兄ちゃんとサッカーをした。楽しかった。
一週間くらいたったある日、お兄ちゃんが淋しげに言った。
まだ日の昇る前だった。
「俺、もう行かなきゃいけないんだ」
「また明日来る?」私はいつものように聞いた。
するとお兄ちゃんは目の前にしゃがんでこういった。
「レイちゃん、ごめんね。
おにいちゃんさ、遠くに行かなきゃいけないんだ。
だから明日の朝からはもうここにこれないんだよ。」
私はのどの奥が急に苦しくなって、もう少しで泣きそうになったが
とても意地っ張りな、いやなガキんちょだったので
両手をぐーっと握り締めて、お兄ちゃんをぎゅっと見つめ答えた。
「ふうん。もうこないのか。」
お兄ちゃんは私のグーの両手に自分の手を添えると
「サッカー、面白かった?」と聞いた。
私はなぜか素直に「うん」と言っていた。
お兄ちゃんは「そうか、良かった」というと、
グーの手を手を引っ張って前に出させると
「ハイ」とサッカーボールを乗せてくれた。
「あげる」
「ボール、くれるの?」
「うん。レイちゃんにあげるよ。お兄ちゃん、持っていけないから」
「どうして?遠いところだから?」
「そう、遠いところだから」
「どのくらい遠いところ?」
私は聞いた。
「あのくらい遠いところかなぁ」
そういっておにいちゃんは指を指した。
指差した向こうには朝の月が輝いていた。
一瞬、すごく遠いなと思ったけど、私は考えた。考えてこういった。
「でも見えるよ」
お兄ちゃんは一瞬びっくりして、そしていつもの笑顔で笑った。
「そうだね。遠いけど見えるね」
それから、おにいちゃんはもう行かなくっちゃといって、
私の頭をなでてくれ、バイバイと言って消えた。
そう、いつものように帰ったのでなく「消えた」のだ。
でも私はその時、それを不思議ともなんとも思わなかった。
黙っていたら涙が出そうだったので、もらったボールを蹴る事にした。
えい、えい!と力任せに蹴っているといつの間にか日が昇って
周りは明るくなっていた。
私の蹴ったへなちょこボールは転がって知らないおばちゃんの足に当たった。
私は走っていって、ボールを拾った。
するとおばちゃんが声をかけてきた。
一瞬おこられるのかとびくっとしたが違った。
おばちゃんはどこか聞いたことのある優しい声で言った。
「おじょうちゃん、おばちゃんにそのボール見せてくれないかしら?」
変なおばちゃんだと思ったが、優しい声だったので、
ボールをそおっと持ち上げて見せてあげた。
おばちゃんはそのボールを私の手の上から握ってあちこち眺め
「ああ、やっぱり」と言い、そして涙をつーっと流した。
私はびっくりしてボールを持った手を引っ込めた。
おばちゃんは涙をためた眼で私をみると言った。
「おじょうちゃん、このボールね、おばちゃん、ずっと探してたの。
うちのね、お兄ちゃんのボールなの。返してくれるかな?」
私はボールを抱えて首を振った。
おばちゃんはしゃがみこんで私を見るともう一度言った。
「あのね、このボールね、おばちゃんのところのお兄ちゃんの宝物なの。
そのおにいちゃんね、この前、天国に行っちゃったの。
それでね、天国に行くとき、そのボールがなくなっちゃったって
ずうっといっていたから、もって行ってあげたいの。
だからおばちゃんに返してもらえないかな?」
そう優しい声で言った。
私は「死」と言うものにものすごく魅入られていた子供だった。
だから私は聞いた。
「おにいちゃん、死んじゃったの?」
死んじゃったら、もうここで会えない。そう思った。
「そう、死んじゃったの」おばちゃんはそういってまた涙を流した。
私はボールをぎゅっと抱えたまま言った。
「でも、これおにいちゃんがくれたんだもん」
おばちゃんは不思議な顔をして、いつ?どこで?と聞いた。
私は一緒にサッカーをした日々の事を話した。
おばちゃんは何度も何度もうなずきながら、
涙を流しながら私の話を聞いていた。
「どこに?どこに行くって言っていたの?」おばちゃんが聞いた。
「お月様のところ」私は答えた。
「遠いねえ」おばちゃんは言った。
私はまた考えて、言った。
「でも見えるところだよ」
おばちゃんはそういうと少しだけ笑って
「そうねえ、ホントね」と言った。
「ハイ」わたしはおばちゃんにボールを押し付けた。
「いいの?」おばちゃんは言った。
「うん、おばちゃんの」私は返事した。
おばちゃんはボールを大事そうに抱えると
「ありがとうね」そういって帰って行った。
今でもサッカーボールを見ると思い出す、不思議な思い出。
名前も知らない優しい瞳のサッカーボールのおにいちゃん。
月に帰ってしまったおにいちゃん。
いまはどこで何をしているだろう?
もしかしたら生まれ変わって今もサッカーボールを追いかけているのかな?
またいつか会えるだろうか?
会えるといいな。
月とサッカーと少年。
不思議な不思議な本当のお話です。