坂入尚文『間道』

この本の中に、写真は1点も入っていない。
にもかかわらず、古いモノクロ写真を目にしているような感じがしていた。
あるいは、音のないフィルム映像。
荒い画質の中、男たちが酒を酌み交わしている。ときおり破顔するが、どんな話をしているのかわからない。
1979年、著者は誘われて見世物小屋の旅に出る。
全国の祭りにあわせて移動し、露店が並ぶ中、蝋人形館を設置する。
何年も旅を続けるうちに、ほかの見世物小屋の人たちとも親しくなり、高市(たかまち・祭り)のしきたりにも慣れてくる。
見世物という言葉には、いかがわしさがついてくる。
見てはいけないものを、こっそり見るというやましさもある。
その裏側を、著者は丁寧に書き綴る。
ときおり「残雪があったかもしれない」という不確かな記憶が混じり、あやふやで怪しげな膜に覆われる。
後半、飴細工師としてテキヤになった著者の話も興味深い。
一般の世界とテキヤの世界の狭間で、両方を見ているような気分になる。
カバーに使われている、フランス語混じりのチラシと、タイトルなどの配置のアンバランスさが、普通ではない雰囲気を醸し出している。
デザインは赤崎正一氏。(2019)

