ジャン・エシュノーズ『ラヴェル』
作曲家ラヴェルをモデルにした、ノンフィクションのような小説。
事実を基に、丁寧に晩年の姿を描いている。
帯に『まるで音楽みたいな小説』とあるが、残念なことに音感の良くないぼくには、音の調べは聞こえてこない。
でも、ラヴェルの姿、場面の情景は、驚くほど鮮明に現れる。
それは、文の多くが現在形で書かれているからだろう。
『彼は階段を駆け上がる。……見えない。……しようとする。……止まっているだけだ。……包んでいる。』
最新のVRを使ったように、ラヴェルとの距離が近い。
有名人であり、いつも周りに人がいるのに、どうしてか寂しさがまとわりついている。
実際にこんな雰囲気の人だったのか、それとも作者が意図して作り上げたのか。
カバーの素っ気なさは、とても地味な物語をイメージさせる。
薄い本なのに、難しい曲が掲載された楽譜のようで開くのをためらう。
でも読んでみると、わりと簡単で、思いのほか深みがあって、繰り返して読みたくなる。
曲の練習をするかのように、少しずつ理解を深めていけるのだ。(2019)