ショーン・プレスコット『穴の町』
表紙は白と黒の2色。
右半分が黒の楕円で覆われ、それは背を越え、表4のほとんどを埋め尽くしている。
中には、白抜きで『穴の町』とタイトルが入っている。
残り半分の白地には、死人のような真っ黒な目をした人物が2人。
白い帯には、細く赤い文字が、呪文のように横たわり、その上に黒のゴシックでひとこと「町が消える。」。
SFっぽいのか、ホラーなのか。
恐ろしい顔をした本だが、読み始めると、かなり違った感触で、いろいろ考えさせられる物語だった。
その町にやってきた男は、消えゆく町について執筆している。
知ってか知らずか、その町も、やがて消えていく運命にあった。
町の住人らに話を聞く男。
彼らの話は興味深い。
そして誰もが、確実な拠り所のない人生を送っているとわかる。
話を聞いている男も、どこからやってきたのか本人もわからず、浮遊感の漂う人生だ。
男は、スーパーマーケットで働く。町を離れ、ホームレスに堕ちそうになり、また同じ職を得る。
堕ちていく友人を支えながら、踏みとどまっている。
小さな杭で、流されないように、なんとか自分の居場所を見つけようとするかのように。
広大なオーストラリアが舞台なのに、どこにいても風通しが悪い。
徘徊する思考を止めるには、出口を見つけるのではなく、探すのを止めてしまった方が簡単だ。
穴に落ちるとは、そういうことだろうか。
装画はタダジュン氏。(2019)