リー・チャイルド『ミッドナイト・ライン』
映画に原作小説がある場合、先に映画を観るか、それとも原作を読んで映画を観るかの選択を迫られる。
ぼくは映画館が好きで、上映期間中に観るためには原作をものすごい速さで読まなくてはならず、それは無理なので先に映画を観ることが多い。
映画によっては、原作を離れ映像独特の世界を表現している場合もあるので、ストーリーなどの情報がない方が楽しめることもある。
一方小説は、映像化されたものがひとつの解釈と傍らに置きつつ、自分で別の世界を想像できる余地がある。
いずれにしても、ふたつは別物と考えていて、観る時、読む時の気持ちが違う。
リー・チャイルドの小説を原作とする映画『アウトロー』を観て、ぼくは原作の存在を知り、それから翻訳されたものを読むようになった。
『ミッドナイト・ライン』は映画化されていない小説で、ジャック・リーチャーを主人公としたシリーズの1冊。
ジャック・リーチャーは身長195センチ、体重113キロの大男。ビッグフット、超人ハルクと陰で呼ばれたりする。そのどちらとも異なるのは、元米国陸軍憲兵隊指揮官で、論理的に物事を考えるところだ。彼は一箇所に留まって暮らすことができず、絶えず放浪の旅をしている。
この本の冒頭も、リーチャーは旅の途中。行き先にかまわず長距離バスに乗り、トレイ休憩で質屋の陳列窓をのぞいたことから、独特の物語が始まる。
質屋で見つけたのは、陸軍士官学校の卒業生だけが与えられるクラスリング。リーチャーもこの学校の出で、リングを得るにはどれほど厳しい体験をするのか身をもって知っている。そう簡単に質屋に売ることなどできない。そこにリーチャーは漠然とした事件性を感じ、持ち主の女性を探そうとする。
リングの仕入れ先をたどっていくと、怪しげな連中に行き当たるが、リーチャーは真正面から向かっていく。彼はナイフ、銃などの武器を持たない。武器どころか、所持品はズボンのポケットに歯ブラシだけ。最後にリーチャーはどんな真実を見つけるのか。
読後、正しいこととそうでないこと、善悪の区別が曖昧になってしまう。
リーチャーとの旅は面白い。
装丁は岡孝治氏。(2020)