セス・フリード『大いなる不満』
物語の一行目は大事だ。
ここにある11の短編は、最初の一文で心をつかまれるものが多い。
「鬱蒼とした森で、私は原住民の女を殺す。」
「まず言っておくが、私は男だ。」
「僕が生まれた次の日、父さんは撃たれて死んだ。」
なかでも『フロスト・マウンテン・ピクニックの虐殺』は特に衝撃的だった。
「去年、ピクニックの主催者たちは私たちを爆撃した。」
明るく楽しいはずの「ピクニック」と、陰惨なイメージの「爆撃」とが同じひとつの文の中にあり混乱する。さらに、
「年を追うごとにひどくなっていく。つまり、年々犠牲者の数が増えている。」と続く。
ピクニックとは、市民が大勢集まるイベントで、毎年行われている。そして毎年形を変え虐殺が行われる。
市民集会が開かれ、主催者を非難し、参加を自粛する動きがあっても中止にはならず、結局また多くの人が参加する。
では人々は、このピクニックが楽しくて仕方がないのかというと、どうもそうではないようだ。楽しい振りを演じているにすぎない。
不気味で奇妙だ。
それなのに、無理に笑顔を作る人たちの気持ちが、どことなくわかる気がしてくる。子どものためとか、現実的ではないからとか、いろいろな理由をつけて、ぼくも参加を続けてしまうかもしれないと。
この物語を、ぼくはたぶん一生忘れられない。
装画は大竹守氏。(2020)