ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ミルクマン

2022-09-05 16:07:40 | 読書
 アンナ・バーンズ『ミルクマン』




 表紙のモヤモヤした模様を眺めていると、だんだん人の顔に見えてくる。

 顔の真ん中に「ミルクマン」のタイトル。

 これがミルクマンなのか?


 ミルクマンとは誰なのか?

 ある日、18歳の女の子が道を歩いていると、突然隣に車を接近させ家まで送ると申し出た男。

 彼女は丁重に断ったが、ミルクマンと付き合っているという噂が流れてしまう。

 その後もミルクマンは神出鬼没、彼女の行く先々に現れ、車に乗るよう声をかけ、断られるとすっと消える。

 
 舞台は明確にされていないが、アイルランドがモデルになっているようだ。

 イギリスとの紛争真っ只中の70年代。

 少女の住む地域は、反体制派の武装組織が仕切っている。

 普通の人々が暮らしているが、この地区では、忠誠を示すお茶とそうでないお茶があり、通っている場所、Hの発音、あらゆるものが政治的な意見を表すことになってしまう。

 裏切り者と見られないかと、近所の人との会話にさえ気を使う。

 政治がらみの殺人、テロは日常茶飯事。

 本を読みながら道を歩く少女は、周りからは変人と見られているが、こんな閉塞感に満ちた日常では、本の世界に逃げ込まないと精神の安定を得られないのだろう。

 19世紀の古い小説しか読まないのも納得できる。


 少女につきまとうミルクマンは武装組織の中心メンバーで、付き合っていると思われている少女は、周囲から一目置かれつつも反感を買ってしまう。

 少女は周囲の圧力に屈せず、弁解を試み続けるのだが。


 表紙のモヤモヤ感がずっと拭えない。

 正体がはっきりしないものに感じる怖さ、もどかしさ。これは彼女の周りだけのものではない。


 装画は椛田ちひろ氏、装丁は山田英春氏。(2022)