ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

人類対自然

2022-09-23 10:31:12 | 読書
 ダイアン・クック『人類対自然』



 カバーのイラストは、表題作『人類対自然』を描いたものだと、読んだあとに気づいた。

 湖面に浮かぶボートに3人の男が乗っている。

 水は深く、底が見えない。

 周囲は鬱蒼とした森がどこまでも続いている。

 これだけを見たのなら、キャンプか釣りにでも来たのだろうと思う。

 たわいない男たちの遊びの風景にしか見えない。

 それが一転、こんな恐ろしいことになるとは、家を出た時、彼らは想像もしていなかったはずだ。


 12の短篇は、どれも読んでいて落ち着かなくなる。

 正体のはっきりしない何かに囲まれていて、そこで登場する人たちは生き残ろうともがく。
 

 「世界がひどくなる直前に、わたしは愛する人と結婚した」で始まる『上昇婚』。

 愛の物語かと思ったら、ひどくなる世界の物語。

 家の外は無法地帯で、愛する人は彼女のために薬を買いに出かけようとして、玄関前の階段すら降りないうちに殺されてしまう。

 外で一体何が起きているのか。


 『やつが来る』は、会社でプレゼン中に、何者かに襲われ逃げ惑う社員たちの話。

 やつが来るのは想定内のようで、事前に避難訓練をしていたようだ。

 「やつ」とは何か。よくわからないのに、とてつもなく恐ろしい。


 目に見えない何かに支配される感覚は、偶然の出来事に出会うと強くなる。

 日常の些細な選択さえ、実は生き延びるための戦いなのかもしれない。

 そんなことを大袈裟に考えてしまう。


 装画は木村晴美氏、装丁は緒方修一氏。(2022)


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