バーナード・マラマッド『テナント』
カバーの写真は、誰も住まなくなったマンハッタンのアパート。
出入口の扉は閉ざされ、壁にはポスターがベタベタと貼られている。
歩道には、かつての住人が捨てていったのか、段ボール箱が散らばっている。
小説の舞台と同じ1970年。
小説家レサーが、最後の住人として居座っている取り壊しの決まったアパートも、こんな佇まいなのか。
レサーは、いま書いている小説が終わるまで、環境を変えたくない。
大家が連日、出ていくよう説得に来るが彼は応じない。
管理人はもういないため、郵便ボックスは壊れたまま、エレベーターは動かない。
古いセントラルヒーティングは微かな暖気しか送ってこない。
無人になったほかの部屋は、ジャンキーやホームレスに破壊され、ゴミ、汚物が散乱している。
そんな誰もいなくなった部屋に、黒人作家のウィリーが忍び込み、タイプライターを叩くようになった。
レサーは、ウィリーの存在を大家から隠し、まだ作品を仕上げたことのない彼にプロとしてアドバイスをする。
それは、少し変わった友情の話のようなのだが。
2人にとって、書くことは人生を形作る何よりも大事なこと。
それを脅かすものは許せない。
常に刺すような緊張にさらされる物語が、ハッピーエンドを迎えるとは思えないのに、そうなって欲しいと願ってしまう。
写真はWalter Leporati。(2022)