ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

テナント

2022-10-04 17:24:26 | 読書
 バーナード・マラマッド『テナント』



 カバーの写真は、誰も住まなくなったマンハッタンのアパート。

 出入口の扉は閉ざされ、壁にはポスターがベタベタと貼られている。

 歩道には、かつての住人が捨てていったのか、段ボール箱が散らばっている。

 小説の舞台と同じ1970年。

 小説家レサーが、最後の住人として居座っている取り壊しの決まったアパートも、こんな佇まいなのか。


 レサーは、いま書いている小説が終わるまで、環境を変えたくない。

 大家が連日、出ていくよう説得に来るが彼は応じない。

 管理人はもういないため、郵便ボックスは壊れたまま、エレベーターは動かない。

 古いセントラルヒーティングは微かな暖気しか送ってこない。

 無人になったほかの部屋は、ジャンキーやホームレスに破壊され、ゴミ、汚物が散乱している。

 そんな誰もいなくなった部屋に、黒人作家のウィリーが忍び込み、タイプライターを叩くようになった。

 レサーは、ウィリーの存在を大家から隠し、まだ作品を仕上げたことのない彼にプロとしてアドバイスをする。

 それは、少し変わった友情の話のようなのだが。


 2人にとって、書くことは人生を形作る何よりも大事なこと。

 それを脅かすものは許せない。

 常に刺すような緊張にさらされる物語が、ハッピーエンドを迎えるとは思えないのに、そうなって欲しいと願ってしまう。


 写真はWalter Leporati。(2022)