アリアナ・レーキー『ここから見えるもの』
カバーの絵は、少女やオカピだけでなく、雲や山さえ可愛らしい。
けれども、どことなくつかみどころがない、手ですくっても零れ落ちてしまうような不安も感じる。
ドイツの小さな村に住む人びとの物語。
おばあちゃんのゼルマが、オカピの夢を見たと孫のルイーゼに言う。その夢は、24時間以内に身近な誰かが亡くなる暗示だと皆が知っている。
なんでオカピ?
ライオンやキリンのような、容易に頭に浮かぶ動物でなくてオカピとは。
オカピが気になって物語が頭に入ってこないので、読書を中断しオカピを調べた。
なるほど。納得。
後ろ姿が独特で印象的、曖昧な夢の中でもはっきり認識できる。だからオカピかと。
不吉な夢は、最悪な死を現実にもたらした。
帯に「ドイツの独立系書店が選んだ今年の愛読書賞受賞」とある。
愛読書にしたくなる気持ちがよくわかる。
ゼルマを愛しながら一度も告白をしないまま側に寄り添う「眼鏡屋」。
マルティンは重量挙げの練習としてルイーゼを抱き抱え、彼女は黙ってバーベル代わりになってあげる2人の優しい関係。
時は静かに流れ、人は少しずつ年をとっていく。
いま見えるものを大事にしていきたくなる。
装画は三好愛氏、装丁は塙浩孝氏。(2023)