ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ここから見えるもの

2023-03-19 18:58:00 | 読書
 アリアナ・レーキー『ここから見えるもの』


 カバーの絵は、少女やオカピだけでなく、雲や山さえ可愛らしい。

 けれども、どことなくつかみどころがない、手ですくっても零れ落ちてしまうような不安も感じる。


 ドイツの小さな村に住む人びとの物語。

 おばあちゃんのゼルマが、オカピの夢を見たと孫のルイーゼに言う。その夢は、24時間以内に身近な誰かが亡くなる暗示だと皆が知っている。

 なんでオカピ?

 ライオンやキリンのような、容易に頭に浮かぶ動物でなくてオカピとは。

 オカピが気になって物語が頭に入ってこないので、読書を中断しオカピを調べた。

 なるほど。納得。

 後ろ姿が独特で印象的、曖昧な夢の中でもはっきり認識できる。だからオカピかと。

 不吉な夢は、最悪な死を現実にもたらした。


 帯に「ドイツの独立系書店が選んだ今年の愛読書賞受賞」とある。

 愛読書にしたくなる気持ちがよくわかる。


 ゼルマを愛しながら一度も告白をしないまま側に寄り添う「眼鏡屋」。

 マルティンは重量挙げの練習としてルイーゼを抱き抱え、彼女は黙ってバーベル代わりになってあげる2人の優しい関係。

 時は静かに流れ、人は少しずつ年をとっていく。

 いま見えるものを大事にしていきたくなる。


 装画は三好愛氏、装丁は塙浩孝氏。(2023)