ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

ガラスの街

2021-08-08 15:24:07 | 読書
 ポール・オースター『ガラスの街』





 ポール・オースターの初期の作品である『ガラスの街』をずっと読まずにいたのは、コミック版の「シティ・オブ・グラス」を先に買ってしまったからだ。

 デビッド・マッズケリの絵によるコミック版は、10数ページ進んだあたりで読めなくなってしまった。

 読みにくかった。

 その原因が原作にあるのか、描き方にあるのかわからなかったが、コミックが読めないのに原作がわかるのか? という思いが残った。

 そのまま20年が過ぎてしまった。


 柴田元幸訳の新潮文庫版『ガラスの街』を書店で見かけたとき、カバーのモノクロの絵が、コミック版の「シティ・オブ・グラス」を思い出させた。

 2つの絵が似ているのはモノクロという点だけ。

 タダジュン氏のイラストには、物語の面白さを想像させる何かがあって、強くこの本を読みたいと思った。コミック版の呪縛が解けたかのようだった。


 小説を読んでみて、コミック版で感じた分かりにくさが、原作の分かりにくさに起因しているとわかる。

 その分かりにくいことを、少しでも分かりやすくするために描かれている絵が、かえって混乱を生んでいる。

 さらに、コミック版は原作をミステリーとしてとらえているため、必要のない箇所でも謎に満ちた雰囲気を出している気がする。


 ぼくは、小説のこの分かりにくさを気に入っている。

 そもそもミステリーを読んでいるつもりはないので、謎が謎のままでも構わない。

 ポール・オースターの世界に浸るだけで、ぼくは十分幸せだ。


 装画はタダジュン氏、装丁は新潮社装幀室。(2021)


コメント
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