ジュリアン・バーンズ『イングランド・イングランド』
紅茶、2階建バス、ロビンフット。バラにシェークスピア、ウェストミンスター宮殿。国旗を見なくても、これらが示すのはイングランドだとわかる。
カバーに描かれた絵に、ぎゅっと詰まったイングランドらしさ。
イングランドの南、すぐ目の前に浮かぶ小さな島に、イングランドらしいものを詰め込んだ高級レジャー施設を作ろうとするサー・ジャック・ピットマン。
目指すのは本物を凌駕するレプリカ。
ビジネスで築いた巨万の富で、国王までも招いてしまう。
物語の根底にあるのは、凋落してしまったイングランドへの無念さだろうか。
かつての古き良き時代を理想とする、新たな国づくり。
小説の中では、稼ぐためのテーマパークとして描かれているが、新しいものは何もなくとも、イングランドらしさだけで十分世界中から人を呼べるという物語に、イングランドに対する誇りが見える気がする。
馬車が走る古い時代に生きているという設定のスタッフが、その生活に馴染んでしまうというのは、イングランド人の気質を揶揄しているのか、それとも本当に昔は良かったという著者の思いなのか。
装画は牛尾篤氏、装丁は藤田知子氏。(2021)