ロビンソン本を読む

本とデザイン。読んだ本、読んでいない本、素敵なデザインの本。

本を読むひと

2021-08-15 19:42:40 | 読書
 アリス・フェルネ『本を読むひと』




 カバーには、おどける少年と澄まし顔の少女の写真。

 無邪気な子どもの姿が微笑ましく、つい本を手に取ってしまう。

 帯を外し2人の足元を見ると、古い時代なのか、貧しさが感じられる。

 ジプシー(ロマ)の子どもたち。

 ノンフィクションの雰囲気を出しているが小説だ。


 フランスに暮らすロマの大家族と、フランス人女性の物語。

 祖母を中心とした家族は、ぬかるんだ土地に許可なく住み着いている。

 キャンピングカーと、薪よりもゴミの方が多い焚き火、水は遠くまで汲みに行く生活。

 ロマは自由気ままに楽しく生きていると思っていたが、そうではない。仕事をせず、貧しく、また社会から疎外されている。

 そんな閉鎖された家族の元へ、図書館員の女性エステールが訪れる。

 教育を受けていない子どもたちに、本を読み聞かせようとするのだ。

 現実のロマの生活はわからないが、これを貧困家庭の話だと思うと身近に感じられる。

 学校へ通ったことのない親の無気力な人生を、子どもに受け継がせていいのだろうか。

 エステールの行動を少し理解できる。

 彼女は、物語の持つ力を信じている。

 やがてそれが、子どもだけでなく、親をも変えていく。

 信じることの先に希望があることを、この物語は教えてくれる。


 カバー写真はJosef Koudelka、装丁は新潮社装幀室。(2021)


コメント
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