ラグビーW杯フランス大会は8日(日本時間9日)に開幕。日本代表(世界ランク14位)は前回大会の8強を超える「4強以上」を目指している。そんな桜戦士について、第2回(1991年)、第3回大会(95年)に日本代表スクラムハーフ(SH)として出場した堀越正己氏(54)を直撃。「3勝1敗でD組を突破する」と予想した。
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──ケガ人が出てメンバーが変更となったり、直前までバタバタした。
「ロックのヘル・ウベとCTB中野将伍が離脱。代わってロック/フランカーのアマト・ファカタバとフランカーの下川甲嗣が追加登録された。バックスのCTBが抜けたのに代わりにFWが入ったり、いくつか疑問点はあります」
──日本はW杯前の強化試合を1勝5敗。国内5連戦でハイタックルによって2枚のレッドカード処分を受けた。
──というと?
「ジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC=53)がW杯用の戦術を隠している気がするんです。『キックを使う』と言いながら、強化試合では自陣から回したりしてチグハグな攻撃を繰り返した。(スクラム)ハーフかスタンドオフ(SO)から蹴るのか。いずれにしても、あまりキックを使っていない。このあたりは本番まで戦術を見せていないということで楽しみにしています」
──最後の実戦となったイタリア戦は21-42。
「キックの精度が低いのが気になりました。先発したSO李承信が2本、リザーブから途中出場した松田力也も2本ゴールキックを外した。こんなに外しては苦しい。隠すところではないので、修正しないといけません」
4試合目のアルゼンチン戦まで全勝なら
──初戦は初出場のチリ(世界ランク22位)。
「情報があまりないのですが、今大会で唯一の初出場チーム。日本は4トライ以上の勝利でボーナスポイントを含めた勝ち点5を目指したい。でも、決して簡単な相手ではありません。クラブリーグの発足などで環境が整備され、実力を伸ばしている。W杯常連国のカナダと米国を予選で退けているので侮れません。それでも、初戦をしっかり勝つと、テンポが出てくると思います」
──2戦目は優勝経験のある強豪イングランド(同8位)。
「昨年12月にボースウィック監督が引き継いで以降、テストマッチは9戦6敗。W杯前最後の実戦でもフィジー(同7位)相手に初めて黒星を喫した。SOファレル、ナンバー8のブニポラの主力2人が危険なプレーで出場停止中。主将のファレルは2戦目の日本戦まで出られない。チーム的にもいい状態じゃありません。フィジーに敗れたことで自信を失っているので、勝つチャンスは十分あります」
──3戦目はサモア(同12位)。
「嫌ですね。代表資格条件が緩和され、元オーストラリア代表SOリアリーファノらW杯で実績のある選手が新たに代表に入ったことで、確実に戦力はアップした。7月のテストマッチで日本に勝利。W杯前最後の実戦ではアイルランド(同1位)に4点差で惜敗した。難しい試合になりそうです」
──最終戦はアルゼンチン(同6位)。
──堀越監督が初めてW杯に出場したのは、1991年の第2回大会。
「初戦の1日前か2日前にホテルで先発メンバーが発表になって、スコットランド戦で僕が外されることが分かり、大きなショックを受けました。それで、練習にスパイクを持っていくのを忘れてしまい、大目玉を食らいました」
──その初戦でスコットランドに9-47と大敗。
「会場はスコットランド本拠地のマレーフィールド競技場で、控え選手の席は当時は観客席だった。スタンドは満員で、スコットランドの人は日本の選手がいいプレーをした時も拍手をしてくれて、盛り上がりを肌で感じることができた。2試合目、3試合目はスタメンで出ることができました」
──3試合目のジンバブエ戦で日本は52-8でW杯初勝利。
「スコットランド、アイルランドに敗れて2敗。1次リーグ敗退は決まっていたので、最後は勝たなくては帰れないと思っていた。スクラムから出てきたボールをトライしたのを覚えています。
──第2回大会の日本代表監督は、県立熊谷高出身で早大の先輩でもある故・宿沢広朗氏だった。
「同じスクラムハーフだったこともあって、僕は『宿沢2世』と呼ばれていました。準備を大切にして相手チームの情報を分析し、綿密に戦略を立てる監督でした。常に励ましてくれて、選手にはいつも『勝てる』と思わせてくれた監督でした」
──第3回大会は小薮修監督が率いた南アフリカ大会。
「アパルトヘイト政策が終わったばかりの頃。ブルームフォンテーンで合宿を張っていましたが、治安が不安定で外出は禁止。どうしても外に行く時は、拳銃を持った警察官が護衛のためについてきました」
──印象に残っているのは、17-145で敗れた1次リーグ第3戦のニュージーランド戦?
「そうですね。あの試合は先発じゃなかった。あの頃は選手交代が認められていなかったので、試合には出場していないんです」
──スタンドでどんな思いで見ていたか?
「僕だったらあの位置にいけるんじゃないかとか、なぜ止められないのかと思ったり……。最初は吉田(明)と元木(由記雄)の両センター陣がドリフト(相手を内から外に追いやっていくディフェンス)でいくんですよ。でも、2人が全く相手に届かなくて、パス1本で抜かれてしまう。試合の後に元木か吉田に聞いたところによると、ぶつかったら腰回りに手が届かなかったそうです。今まで戦った相手とは違う感覚で、コンタクト力とか、パスのスピードとか、太ももの太さとか、全ての次元が違って、はじかれていたんです。でも、あの試合から日本の本気の強化が始まったんです」
──今大会の優勝予想は?
「優勝は地元フランス(同3位)。準優勝は南アフリカかニュージーランド。ダークホースはフィジーとみています」
──1999年に地元・熊谷で立正大の監督に就任して25年。昨年は関東大学リーグ戦3度目の1部復帰を果たし、5位に食い込んだ。
「今年は若いチームで、夏合宿から競争してきました。前に出るアタック、前に出るディフェンスが立正大のラグビー。1部に残ることが第一ですが、昨年は5位だったので、なんとか上位陣に勝ってリーグ戦で3位に入れれば、大学選手権に出場できます。国内からラグビーを盛り上げたいですね」
(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)
▽堀越正己(ほりこし・まさみ) 1968年11月27日生まれ、埼玉県熊谷市出身の54歳。現役時代はSH。熊谷工では全国高校大会で2年時に4強、3年時に準優勝。早大では1年で日本選手権優勝、3年で大学選手権優勝。神戸製鋼では日本選手権7連覇のうちV4以降に貢献。日本代表は通算26キャップ。99年から立正大ラグビー部監督。テレビのコメンテーターとしても活躍。愛称は「モグ」。