「NO(ノー) PFAS(ピーファス)」「米軍の環境汚染許すな」。十一月下旬の金曜夕刻、沖縄県宜野湾市役所前で思い思いのプラカードを掲げた五人が、国道を走る車に手を振っていました=写真。
車中の運転者はクラクションを鳴らして連帯を示します。五人は米軍基地被害を訴える市民団体のメンバー。ときには数十人が週末の抗議活動に駆けつけます。
PFASは米軍基地に貯蔵される泡消火剤などに含まれる有害な有機フッ素化合物の総称です。
週のはじめに考える 沖縄は植民地ですか?
同市の普天間飛行場やうるま市の陸軍施設、金武(きん)町のキャンプ・ハンセン周辺では河川や土壌、飲料水からPFASが検出され、深刻な環境汚染になっています。基地が故意に汚水を下水に放出したこともありました。
深刻な米軍基地被害
在日米軍施設・区域の七割が集中する沖縄県では米軍機の不時着や部品落下、騒音、米兵の犯罪など、命や暮らしに関わる危険が直接県民に降り掛かってきました。環境汚染も同様の基地被害です。
「政府が米軍の横暴を許して私たちの人権を踏みにじり続けるなら沖縄が独立して問題を解決するしかない」。市役所前の抗議活動に参加していた八重瀬町の事務職女性(42)は言い切ります。プラカードにこんな文言もありました。「琉球沖縄は植民地ですか?」
もちろん沖縄は、日本を構成する四十七都道府県の一つであり、植民地などではありません。
しかし、江戸期の薩摩藩侵攻や明治期の琉球処分、戦後の米軍統治などを通して植民地的扱いを強いられてきたのは事実です。
十月、国連総会第三委員会に提出された「植民地主義の遺産への対応」をテーマとする報告書に沖縄の状況が盛り込まれました。
パレスチナなどとともに「植民地支配された地域の先住民族が総人口に占める割合が高い」ケースに沖縄を挙げ、沖縄が現在、植民地時代からの移行期にある、と認定。人権侵害という負の遺産の是正が必要と提言する内容です。
沖縄国際大非常勤講師(国際公共政策学)の大城尚子(しょうこ)さん(41)は「国連が沖縄の現状を、琉球併合(琉球処分)から続く日本の植民地主義と関連付けてとらえた意義は極めて重い。政府は報告の趣旨を尊重すべきだ」と話します。
大城さんは報告書を作成した特別報告者に「植民地支配を背景とした人権侵害−沖縄琉球の場合」と題するリポートを送り、口頭でも沖縄の実態を報告しました。
国連は、二〇〇七年に「先住民族の権利に関する宣言」を採択。沖縄の人々を先住民族と認め、独自文化の保護や、土地を勝手に軍事利用されない権利などを守るよう、五回にわたって日本政府に勧告してきました。
しかし政府は宣言に賛成しながらも勧告を受け入れず、沖縄の人々を先住民族と認めていません。今回も特別報告者に「日本国民の権利は沖縄の方々に完全かつ等しく保障されている」と、政府見解を直接伝えたといいます。
政府対応に県民の不信
そんな反論とは裏腹に、大城さんには、政府が沖縄により強権的になっていると感じられます。
県内十一の基地返還などに合意した日米特別行動委員会(SACO)最終報告から二十五年がたちますが、基地負担軽減策の目玉だった普天間飛行場の返還はいまだ実現していません。
代替施設とされた名護市辺野古での新基地建設が軟弱地盤などの影響で難航し、当初の計画から大幅に遅れているからです。
政府は新基地建設に反対する県民の声に耳を貸さないばかりか、沖縄関連予算を削減するなど「ムチ」を振るおうとしています。
PFAS汚染の実態を公表しない、米軍機の落下物事故に飛行停止を求めない。米軍の法的特権を定めた日米地位協定を放置し、米軍の意向にばかり従う政府対応に県民の不信は募るばかりです。政府はより誠実に、沖縄県や県民と向き合う必要があります。
故丸木位里(いり)・俊(とし)夫妻の「沖縄戦の図」を展示する宜野湾市の佐喜真美術館の屋上に上ると、眼前に濃い緑が広がり、風がざわざわと通り抜けていきました。戦前までいくつもの集落を包み込み、住民の暮らしを支えた松林です。
その隙間から見えるのは普天間飛行場の滑走路です。日本であっても日本ではない、沖縄であっても沖縄の人が立ち入れない場所。「琉球沖縄は植民地ですか?」。その問い掛けが胸に迫ります。
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