強制性交罪を「不同意性交罪」に変更することなどを盛り込んだ刑法改正案が14日、閣議決定された。暴行または脅迫によって性行為をした場合を処罰対象とする現行法の規定を、相手を「同意しない意思の形成、表明、全う」のいずれかが難しい状態にした場合に改める。処罰範囲も例示することで、従来は犯罪とみなされなかった性加害の処罰に道を開く一方、適切な運用に向けた議論が急務となっている。(大野暢子)
◆男性の元勤務先「合意の上だと認定」
「従わないと、もっとひどい目に遭うと思った」
鹿児島県の女性は取材に、絞り出すように語った。約2年前、仕事関係の知人男性に押し倒され、体を触られた。抵抗を試みたが、体格差が大きく断念。仕事上、その後も打ち合わせを兼ねた食事の誘いや連絡に応じていると、男性の行動はエスカレートした。
女性が心身に不調をきたし、同僚に事情を話したのは約3カ月後。事実が明らかになり、男性は停職処分を受け、依願退職した。男性の元勤務先は取材に「二人きりでランチに行ったことや、相当程度の電話連絡をし合っていたことなどを勘案し、合意の上での性的接触・性交だと認定した」と答えた。
女性は男性を警察に告訴し、捜査が続く。「面会や連絡に応じたのは恐怖心からだ」と訴える女性。刑法改正案が被害者の「不同意の意思」を明記したと知ったが「悩んだ末に被害を訴えても、相手側や周囲に『当時は同意していたはず』と言われたら、救われない」と話した。
◆強制性交罪から、どう変わるのか
現行の強制性交罪の適用には、被害者が抵抗できないほどの暴行や脅迫があったことの証明が必要となる。裁判では「被害者はどの程度抵抗したか」「なぜ抵抗しなかったか」が問われる傾向にあり、被害者側に重い立証責任を負わせていると長年指摘されてきた。
今回の改正案では、さまざまな理由で被害者が抵抗できないことがあるという実態を踏まえ「アルコールまたは薬物を摂取させられる」「心身の障害を利用される」など八つの要件を例示した。ただ、被害者の内心のみで犯罪が成立するわけではなく、これらが原因で不同意の意思表明などができなかったことを立証する必要はある。
弁護士の斉藤豊治甲南大名誉教授(刑法)は取材に「これまで十分に救済されてこなかった被害者にとって利益となるだろう。同意のない性交は処罰に値するという認識を、広く社会に伝えることが重要だ」と改正案を評価した。一方で「処罰範囲が明確にされても、一律に5年以上の有期拘禁刑が科される影響などで、検察官が起訴を控える懸念がある。真に被害者の救済に資する運用が行われるよう、法定刑の見直しを含めた議論が必要だ」とも指摘した。
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