性的少数者の悩みや苦しみに思いを致した判断だといえよう。戸籍上の性別を変更するには、生殖能力をなくす手術が必要-とする性同一性障害特例法が、憲法違反かどうかが論点になった家事審判で、静岡家裁浜松支部は「同法の規定は憲法に違反し、無効」と判じ、申立人の浜松市、鈴木げんさん(48)=写真=の性別変更を認めた。弁護団によると、同法を巡る初の違憲判断だという。
鈴木さんは、戸籍上は女性で、性自認は男性。40歳で性同一性障害と診断され、手術をしないで性別変更できるよう求めていた。
2004年施行の特例法は性別変更の要件の一つとして「生殖腺がない、または生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」と定める。この規定は精巣や卵巣の摘出手術などを指すと考えられており、司法統計によると法律の施行後、20年末までに1万人以上が手術を経て性別を変更している。
同支部は審判で、こうした手術は身体への強い負担であり、場合によっては生命や身体の危険を生じるとし、手術を受けるか否かを決める自由は「憲法13条(個人の尊重)で保障される」とした。
さらに、性別変更のために手術をしない場合でも、複数の医師による性同一性障害の診断など他の要件を厳格に行えばよい、と踏み込んだ。特例法施行から20年弱が経過し、性的少数者への理解が進んだとの認識も根底にあろう。
世界保健機関(WHO)は14年に「望まない不妊手術は、人間の尊厳の尊重に反する」との声明を発表。今回の審判も、欧州を中心に生殖不能を性別変更の要件にしない流れだ、と指摘した。
同種の家事審判は複数あり、最高裁は19年、手術など性別変更の要件を「現時点では合憲」と判断したが「憲法適合性は不断の検討を要する」とも述べ、将来的に判断が変わる可能性も示唆した。
家事審判では、申立人以外に対立当事者がおらず、今回は同支部が鈴木さんの訴えを認めたため、「違憲」の判断がこの件に限って確定。最終的な違憲立法審査権を持つ最高裁は、審理中の別の同種案件で、25日に司法としての判断を下す。同支部が示した考えも踏まえ、当事者の立場に立った公正な判断を期待したい。
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