闇バイトによる強盗事件の多発を受け、政府は犯罪対策閣僚会議で、捜査員が身分を偽って実行犯に接触する「仮装身分捜査」導入を柱とする緊急対策を決めた。
仮装身分捜査については来年早期の実施を目指すが、犯罪の抑止効果が期待される半面、乱用の懸念もあり、適用対象を法律で厳格化することが不可欠だ。仮装身分捜査は、捜査員が闇バイトに応募し、募集先に架空の身分証などを画像送信。実行犯らと接触し、犯行前に強盗予備罪などで摘発することを想定する。これまでも、違法薬物や銃器の取引に限り、身分を隠す「おとり捜査」は認められてきたが、身分を「隠す」ことを超えて「偽る」ことは公文書偽造になりかねず、導入は控えられてきた。警察庁は今回、刑法には「正当な業務による行為は罰しない」との規定があり、身分を偽っても違法性は問われないとしている。闇バイト犯罪の実行犯らには、捜査員が紛れ込みかねないことが心理的な圧力となり、犯罪抑止策として有効だろう。ただ、この捜査手法は劇薬でもある。身分証の信用低下を招くだけでなく、適用対象が広がれば、社会に疑心暗鬼を招きかねない。とりわけ公安捜査などに使われた場合、集会や結社の自由を定める憲法に抵触する恐れがある。警察庁は闇バイト犯罪にのみ適用する運用指針をつくるとしているが、特別法の制定など法律で厳格な歯止めを講じるべきではないか。運用状況を第三者が点検する仕組みも必要だろう。偽装が発覚すれば捜査員が危険に陥る可能性もある。安全確保のため準備に万全を期すべきだ。闇バイト犯罪集団の根絶には指示役の摘発が必要だが、秘匿性の高いアプリを使って遠隔指示をしており、仮装身分捜査でも指示役の特定は難しいのが現状だ。アプリを提供している海外事業者とは交渉窓口もなく、政府の緊急対策は「日本向けの窓口設置を促す」と提示したにとどまる。さらなる対応が必要だろう。緊急対策では、SNS事業者にアカウント開設時の本人確認厳格化や、求人サイトの運営事業者には事前審査の徹底などを求めている。速やかに実施すべきだ。闇バイト横行の背景にある若者の経済的困窮を改善するため、支援策の強化も忘れてはならない。
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