私の下から2番目の妹はダウン症で、障害者の作業所に毎日通っている。ダウン症特有のおとなしく真面目で几帳面、亡くなった母もとても可愛がっていた。最近会っていないがもう28歳になり、この子の兄は「アラサーじゃないか」と冷やかすと妹は笑っていた。
その姪が少し前に急に家に帰ってきても元気がなく、夕飯の時もしょんぼりするようになった。もともとおしゃべりな子ではないが、それでも元気がなく黙り込んでいる。どうしたのかと尋ねても何も答えない。妹はおかしいと思って作業所に相談した。すると同じ作業所にいる10歳くらい年下の女の子が中心になって、作業所で働いている中のおとなしい子や弱い子を口汚くののしったりしていじめていたことが分かった。その女の子は特別支援学校(旧養護学校)を出て作業所に来たようだが、来るなり作業所の職員に「オイ」などと呼び捨てるような、家庭ではまったく躾けられていない子だったようで、すぐにいじめも始めたらしい。母親は意識ばかりが強い女性らしく、作業所の職員が呼んで実情を話して相談したら機嫌を悪くして、それからは親の会にも出てこなくなったと言う。この親にしてこの子ありというところだ。
私は退職後しばらく知的障害者の親の会の事務局にいたことがあるが、知的な面で障害を持っていても親としてきちんとわきまえた躾をするかしないかで、子どものあり方が違ってくることは、健常児の場合とまったく変わらないということを見聞きしていた。姪をいじめた子の親は育て方を間違ったのだろう。結構悪知恵もあるようで、姪のようないじめた子には「ちくるなよ」と脅したりもしていたようだ。もう成年近くになるから、口で諭してもなかなか改まらないだろうが、今ではいじめも少し収まったのか、姪は落ち着いてきているようだ。
ところが、妹が不快に思ったのは、その女の子が在籍していた特別支援学校の姿勢だ。作業所ではこの子の生い立ちや学校での様子などを聴いて指導の参考にしたいと考えて、学校に問い合わせしたが、学校では個人情報だからと言って教えてくれなかったようだ。本来なら自分たちが教育した生徒について、卒業後の就職先の作業所に申し送りをするのが当然のことだろう。それを個人情報だからと言って作業所の要請に応えないのは、個人情報保護について履き違いしているのではないか。あるいは民間の作業所の職員に対する見下した意識があるのかも知れない。
近頃は何かと言うと「個人情報」だからと言うことがよくあって、行き過ぎではないかと疑問に思うことが少なくないが、これについてはもう少し書きたい。