福岡市では職員の飲酒による不祥事が続き、市長は全職員に1ヵ月間自宅外での飲酒を禁じることにしたそうです。異例の措置ということで、職員からの問い合わせに対応するために人事課では、職員の疑問に上司らが対応する9項目の想定問答集を作成したとのことです。「仕事や親戚の付き合い、結婚式などはどうか」との問いには「原則としてノンアルコール。自分の結婚式の場合は、所属長に相談してください」と回答を例示し、すでに飲み会を予定している場合は「キャンセルする必要はないが、参加者に趣旨を伝えてソフトドリンクを飲むように」としているそうです。公務外の行動ですから、市では職務命令ではなく市長からの強い「要請」ということにしました。
福岡市では6年前に当時の市職員が飲酒運転で幼児3人を死亡させた痛ましい事故があり、この事故を契機に各自治体では飲酒運転をした職員への罰則を強化する動きが広がりましたが、中には直ちに懲戒免職にする自治体もあります(裁判では認められなかった例もありますが)。福岡市でも2月に飲酒して車を盗んだ疑いで逮捕され,4月には市立小学校の教頭が酒気帯び運転で検挙され、いずれも懲戒免職になっています。その後も飲酒の上での不祥事が続いたようです。
市長は職員に対する訓示で「市民はめちゃくちゃ怒っています。めちゃくちゃあきれています」と言ったそうですが、市長が激怒するのは分かります。市民に対しても何らかのけじめをつけなければということもあったでしょう。しかし、この「禁酒令」は本当に必要であったのか、市長の激怒の結果であるならば、以前大阪市の地下鉄で、1人の助役が禁煙令を破ったことに市長が激怒して「懲戒免職だ」「法廷闘争も辞さない」と怒鳴ったこと(その後交通局は懲戒免職を正当化できないとして、停職3カ月となりましたが)を思い出してしまいます。
私はアルコール類に弱くほとんど飲みませんが、酒はおいしいものだと思っているので、仕事帰りなどで一杯やりたくなる気持ちや、休日に戸外に出かけてバーベキューなどをした時にビールを飲んで爽快な気分になるということもよく理解できます。ですから、今度の福岡市長の気持ちや、市の措置にはいささか疑問を持ちます。1カ月と期限を切った意味もよく分かりません。「結婚式の三三九度」などは例外としているようですが当たり前のことで、三三九度は古くからの新郎新婦の儀式で、飲酒というようなものではありません。そういう些細なことまで心配するのはどうかと思いますが、自粛と言うと極端に走るというのは、どうも私達の国民性ではないかとも思います。飲酒してもわきまえて楽しく同僚と飲む人には、この「禁酒令」はきつすぎるようです。
しかし、度が過ぎて周囲に迷惑を与えるような飲み方は嫌です。いわゆる「酒飲み」にはどうしようもなく自制心がなく、「初めに人が酒を飲み、次には酒が酒を飲み、最後に酒が人を飲む」というような者はどこにもいます。そういう人物はたとえ普段はおとなしくても、いったん酒が入ると止めどもなく 飲み、泥酔して人が変わってしまうのがいて見苦しい限りです。そういう人間が今度の市の措置を自分の問題として謙虚に受け止めて、これを機会に節制するようになればいいのですが、禁酒期間中にもこっそり飲むかも知れませんし、禁酒期間が過ぎるとおおっぴらに飲みだして、かえって度を過ごすということも考えられます。九州のある大学の教授が、「公務員に厳しい『世間の声』を背景に、職員を締め上げに走る点は、大阪市の入れ墨調査にも共通している。気になるのは、リーダーシップを掲げる首長がためらいなくこういう行動に踏み切る風潮だ」と言っていますが、あちこちの自治体で「小橋下」的首長が増えるのでないかと気になります。さらに「市民が職員の飲酒を監視し、通報する。そんな息苦しい事態も懸念せざるを得ない」と言っていますが、こういう「お上」に与する「正義の味方」はどこにもいて、そのような行き過ぎた風潮、戦時中の愛国婦人会的な行動が強まることも危惧します。
飲酒で不祥事を起こすことは公務員に限りません。数から言えば一般市民のほうが多いでしょう。市民も他人事とは思わずに、これを機会に市民全体として飲酒の在り方を考えるのがよいと思います。