蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

その犬の名を誰も知らない

2021年07月18日 | 本の感想
その犬の名を誰も知らない(嘉悦洋 北村泰一監修 小学館集英社プロダクション)

1957年〜58年の第一次南極観測隊には、ソリを引くためのカラフト犬がいた。当時は雪上車の信頼性が低く、犬ぞりが重要な運搬手段だったためだ。
第一次越冬が終わり、カラフト犬たちは第二次越冬隊に引き継がれるはずだったが、状況が悪化し、そのまま基地のに置き去りになった。1959年ふたたび組織された観測隊が基地を訪れると、タロとジロの2頭のカラフト犬が生き延びていた。その他の犬の半分くらいは基地付近で繋がれたまま死んでいるのがみつかり、その他の犬は(首輪を外して)逃散していた。

タロとジロの話は誰もがよく知っているところ。どうも基地付近の備蓄食料を食べていたようだが、後にもう1頭の(繋がれていない)犬の遺体が基地付近で発見された。もう一頭の犬がタロとジロとともに基地付近で生きていたようで、その犬はどの犬だったのかを、当時の犬の世話係だった北村泰一さん(犬係といっても本職は地球物理学者なんだが)に聞き書きした内容。

ミステリ風の構成になっていて、北村さんの叙述をよく読むとその犬の名前がわかるようになっている。ただ、結論は誰もがそうあってほしいというものになっているのだが。

カラフト犬の頭のよさ、勤勉性・社会性(ボスが決まるとボスのもと統率のとれた行動ができる)の豊かさなどは驚異的。
そのカラフト犬の同行を観測隊にすすめた犬飼教授(北大の応用動物学)がまたすごくて、獣医を連れて行かないと困ることになる等の助言や置き去りにされた犬は何頭かは生きているという予言?はことごとく正確だったらしい。
この犬飼教授、終戦間際においてもカラフトで犬の研究をしていたというのが、研究者というものの本質を見たようで、また凄いと思った。

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