蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

空をこえて七星のかなた

2023年07月14日 | 本の感想

空をこえて七星のかなた(加納朋子 集英社)

小学校卒業間近の七星(ななせ)は父と石垣島を訪れる。そこで疎遠になっていた父方の祖母と会うが・・・という「南の十字に会いに行く」から始まって、天文観測とか星と関係がある短編が続く。それぞれの短編にストーリー上の関連性はあまりなくて、普通の短編集なのかな・・・と思っていると、6番目の短編「星の子」に七星が再登場して、私のようにぼんやり読んでいた者は著者のたくらみに見事にハマっていたことに気がつかされる。バラバラに見えた各短編には重要な共通点があり、本書はある人物の一代記であったことがわかる。

本書の仕掛けの重要なキーになっているのは、個人のある属性で、後から振り返ると、ちょっと不自然に思わなければいけないような書き方(初めて読んだ時は(私は)ほとんど気が付かなかったが)になっていて、それが伏線になっている。

ストーリーとしてはミステリではないのだが(多少、日常の謎的なものはある)、うまい叙述ミステリを読んだ後のような「やられたー」感があった。

ミステリ好きにも、そうでない人、あるいはほとんど本を読まないような人にもお勧めしたくなる良作。


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