(続)アイラブ桐生・「レイコの青春」(5)
「なでしこ」の誕生(5)レイコと美千子

「驚いたでしょう、レイコ」
すべての園児たちを無事にお母さんたちに引き渡し終えると、
時刻はすでに、午前1時を回っていました。
幸子の車に送ってもらいながら、助手席のレイコが、
最初から感じていた疑問を口にします。
「あんなに小さい乳飲み子たちを、深夜まで預かる保育園があるなんて、
私の知っている保育の世界では、考えてみたこともなかったわ。
とても信じられない光景だ。」
「そうね、レイコ。
それはまったく正直な感想で、ごく当たり前の認識だと思う。
でもね、これは桐生の歓楽街での現実なのよ。
母が運営をまかされているする、『なでしこ保育園』は、
もともと、夜の町で働く人たちのためにつくられた特別な保育のための施設なの。
いろんな人たちが、いろいろな事情を抱えながら、夜の街では働らき続けているわ。
特に子供が生まれたら、すぐにでもまた働きはじめたい人たちにとっては、
乳幼児やゼロ歳児を、夜間に預かってもらえるかどうかは、
そのまま、自分の死活の問題につながるの。」
「公立でも、私立の保育園でも、
ゼロ歳児の保育なんて聞いたことがないし、実在をしていないはずよ。
ましてや、乳幼児の夜間保育だなんて、私は考えてもみなかった。
日本では、まったくありえない話だと思ってた。」
「昼間に、子育てをしながら働いているお母さんたちは、たくさんいるわ。
同じように、夜も子供を育てながら働いている、お母さんたちがいるの。
どちらも同じように、対応してくれる保育園が必要なのよ。
特に、夜働くシングルマザーのお母さんたちにしてみれば、特別に必要だわ
そう言えば、レイコは気がつかなかったの・・・・
あの中に、同級生の美千子が来ていたことに。」
「美千子? さあ~」
「最後に来た、地味なスーツにサングラスをかけて、
生まれたばかりの女の子と、2歳になる男の子を連れて行ったお母さんよ。
美千子のほうは、ちゃんと気がついていたわよ、
やっと念願だった、レイコが来てくれたって。」
「美千子は、いま水商売で働いているの?」
「彼女は今、キャバレー『オスカー』のNO-1のホステスさんよ。
もっと言えば、『なでしこ保育園』の第一号園児の母親で、
いまでは、無認可保育園への公費援助を求める委員会のリーダー役をつとめています。
話をしたがっていたわよ、美千子が。
昔から、ライバル関係だったもんね、あんたたち二人は。」
山の手通りに面した、レイコの自宅へ幸子の運転する車が着きました。
思案顔を続けているレイコを覗き込みながら、幸子が再び話をきりだします。
「吸ってもいいかしら?」そう断ってから煙草ケースを取り出しました。
「普段は絶対に吸わないわよ、激務が終わった後の、ご褒美の息抜きよ。
そういえば、時々あんたも吸ったわね」
と、そのうちの一本を手渡します。
「短大の教育実習の時には公立の保育園で、3歳児たちを受け持った。
保育の世界では、3歳児になってから受け入れるのが普通よね、
母が2年前に開設した「なでしこ保育園」は、
最初からゼロ歳児や、生後間もない乳幼児たちを中心に受け入れていたの。
それも、夕方5時から深夜まで預かるという保育方針なのよ。
最初は私も、まったく信じることができなかった・・・」
「・・・」
「でも、意外とたくさんいるのよ。そういう子どもと、お母さんたちが。
私も最初はびっくりしたけど、
結局、母を手伝うことに決めて、なでしこを手伝うことにした。
でも運営は、常に大変なのよ。
公費の援助が少な過ぎるために、経営はいつだって火の車だし、
保育料だけでは、まったくまかないきれていないのが現状なのよ。
かといって保育料を上げ過ぎたら
働いているお母さんたちの負担が増すばかりだし、
いまのところのは、どこまでいっても保育園は、火の車だわ。」
「そのために、
美千子たちが、公費補助の運動を始めていると言う訳なのね」
「ご明察。
さすがに、レイコは察しがよろしい。
やっぱり美千子が、是非にと見込んだだけのことがあるわ。
実は・・・レイコを呼んだのは、その美千子からのたっての希望なの、
あんたにも、是非、保育園を手伝ってほしいんだって。
とりあえず、公費補助の運動の件も含めて。
とりあえずと言うのは、その先では、もっと壮大な計画もあるっていうことだけど、
それもまた機会をみながら、おいおいと説明をします。
どうする、レイコ。
そういうことなんだけど。で見捨てずに、私を助けてくれるわよね?」
「断る理由が、どこを探しても見つからないわ・・・・
あなたにも、美千子にも。そこまで言われてしまったら。」
「ありがとう、レイコ。あんたなら
そう言ってくれるだろうと、実は、私も確信をしてた。
京都とやらにいる、あんたの家出中の彼氏にも大感謝するようだわねぇ。
おかげでこころおきなく、レイコをこき使えそうだもの・・・・
戦友が一人増えそうで、美千子も嬉しいだろうけど、
幸子は、もっともっと心の底から嬉しいわ!」
「それって、皮肉?」
まァ、夜間の暇なら充分すぎるほどにもてあましています・・・・
と、煙草の煙をゆっくりと吐き出しながら、一人で苦笑しているレイコです。

・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/
「なでしこ」の誕生(5)レイコと美千子

「驚いたでしょう、レイコ」
すべての園児たちを無事にお母さんたちに引き渡し終えると、
時刻はすでに、午前1時を回っていました。
幸子の車に送ってもらいながら、助手席のレイコが、
最初から感じていた疑問を口にします。
「あんなに小さい乳飲み子たちを、深夜まで預かる保育園があるなんて、
私の知っている保育の世界では、考えてみたこともなかったわ。
とても信じられない光景だ。」
「そうね、レイコ。
それはまったく正直な感想で、ごく当たり前の認識だと思う。
でもね、これは桐生の歓楽街での現実なのよ。
母が運営をまかされているする、『なでしこ保育園』は、
もともと、夜の町で働く人たちのためにつくられた特別な保育のための施設なの。
いろんな人たちが、いろいろな事情を抱えながら、夜の街では働らき続けているわ。
特に子供が生まれたら、すぐにでもまた働きはじめたい人たちにとっては、
乳幼児やゼロ歳児を、夜間に預かってもらえるかどうかは、
そのまま、自分の死活の問題につながるの。」
「公立でも、私立の保育園でも、
ゼロ歳児の保育なんて聞いたことがないし、実在をしていないはずよ。
ましてや、乳幼児の夜間保育だなんて、私は考えてもみなかった。
日本では、まったくありえない話だと思ってた。」
「昼間に、子育てをしながら働いているお母さんたちは、たくさんいるわ。
同じように、夜も子供を育てながら働いている、お母さんたちがいるの。
どちらも同じように、対応してくれる保育園が必要なのよ。
特に、夜働くシングルマザーのお母さんたちにしてみれば、特別に必要だわ
そう言えば、レイコは気がつかなかったの・・・・
あの中に、同級生の美千子が来ていたことに。」
「美千子? さあ~」
「最後に来た、地味なスーツにサングラスをかけて、
生まれたばかりの女の子と、2歳になる男の子を連れて行ったお母さんよ。
美千子のほうは、ちゃんと気がついていたわよ、
やっと念願だった、レイコが来てくれたって。」
「美千子は、いま水商売で働いているの?」
「彼女は今、キャバレー『オスカー』のNO-1のホステスさんよ。
もっと言えば、『なでしこ保育園』の第一号園児の母親で、
いまでは、無認可保育園への公費援助を求める委員会のリーダー役をつとめています。
話をしたがっていたわよ、美千子が。
昔から、ライバル関係だったもんね、あんたたち二人は。」
山の手通りに面した、レイコの自宅へ幸子の運転する車が着きました。
思案顔を続けているレイコを覗き込みながら、幸子が再び話をきりだします。
「吸ってもいいかしら?」そう断ってから煙草ケースを取り出しました。
「普段は絶対に吸わないわよ、激務が終わった後の、ご褒美の息抜きよ。
そういえば、時々あんたも吸ったわね」
と、そのうちの一本を手渡します。
「短大の教育実習の時には公立の保育園で、3歳児たちを受け持った。
保育の世界では、3歳児になってから受け入れるのが普通よね、
母が2年前に開設した「なでしこ保育園」は、
最初からゼロ歳児や、生後間もない乳幼児たちを中心に受け入れていたの。
それも、夕方5時から深夜まで預かるという保育方針なのよ。
最初は私も、まったく信じることができなかった・・・」
「・・・」
「でも、意外とたくさんいるのよ。そういう子どもと、お母さんたちが。
私も最初はびっくりしたけど、
結局、母を手伝うことに決めて、なでしこを手伝うことにした。
でも運営は、常に大変なのよ。
公費の援助が少な過ぎるために、経営はいつだって火の車だし、
保育料だけでは、まったくまかないきれていないのが現状なのよ。
かといって保育料を上げ過ぎたら
働いているお母さんたちの負担が増すばかりだし、
いまのところのは、どこまでいっても保育園は、火の車だわ。」
「そのために、
美千子たちが、公費補助の運動を始めていると言う訳なのね」
「ご明察。
さすがに、レイコは察しがよろしい。
やっぱり美千子が、是非にと見込んだだけのことがあるわ。
実は・・・レイコを呼んだのは、その美千子からのたっての希望なの、
あんたにも、是非、保育園を手伝ってほしいんだって。
とりあえず、公費補助の運動の件も含めて。
とりあえずと言うのは、その先では、もっと壮大な計画もあるっていうことだけど、
それもまた機会をみながら、おいおいと説明をします。
どうする、レイコ。
そういうことなんだけど。で見捨てずに、私を助けてくれるわよね?」
「断る理由が、どこを探しても見つからないわ・・・・
あなたにも、美千子にも。そこまで言われてしまったら。」
「ありがとう、レイコ。あんたなら
そう言ってくれるだろうと、実は、私も確信をしてた。
京都とやらにいる、あんたの家出中の彼氏にも大感謝するようだわねぇ。
おかげでこころおきなく、レイコをこき使えそうだもの・・・・
戦友が一人増えそうで、美千子も嬉しいだろうけど、
幸子は、もっともっと心の底から嬉しいわ!」
「それって、皮肉?」
まァ、夜間の暇なら充分すぎるほどにもてあましています・・・・
と、煙草の煙をゆっくりと吐き出しながら、一人で苦笑しているレイコです。

・本館の「新田さらだ館」は、こちらです http://saradakann.xsrv.jp/