落合順平 作品集

現代小説の部屋。

「レイコの青春」 (21) 坂道を歩き始める(1)同級生の双子騒動

2012-07-27 10:50:04 | 現代小説

(続)アイラブ桐生・「レイコの青春」
(21)坂道を歩き始める(1)同級生の双子騒動


(梅雨が明け、桐生にも本格的な暑さの夏がやってきました。
画像は、市内に源を持つ「桐生川」で、その源流近くにある「梅田ダム」の様子です)




古民家を新たな園舎として、
最小限の改造でスタートをした「なでしこ保育園」では、
早くも、次の目標を見据えた計画が立ちあがりました。


 多くの無認可保育園で抱えている問題の一つが、
財政面におけるひっ迫です。
とりわけ運営費の不足は深刻です。
公立や私立の認可保育園では、ほとんどの運営費は
国と地方自治体からの助成金でまかなわれています。
その割合は、実に80%を越えています。
  ※認可保育所とは、
 児童福祉法に基づく児童福祉施設のことで、国が定めた設置基準
(施設の広さ、保育士等の職員数、給食設備、防災管理、衛生管理など)
 をクリアして、都道府県知事に認可されている施設をさしています※



 これにたいして認可外保育施設(にんかがいほいくしせつ)とは、
児童福祉法で言う「保育所」には該当しない保育施設のことで、
認可外保育所や、認可外保育施設などと呼ばれています。
設置には、児童福祉法第59条の2による届出が必要とされる施設の
ことで、俗に「無認可保育所」と呼ばれています。



 無認可保育所では、
保育のサービス内容や保育料などは、施設ごとに自由に設定ができます。
また、保育定員が5名以下の施設では、設備や保育内容についての
公的基準は適用されません。
多様に自主的に運営ができる半面、国や自治体による
運営費への補助は、きわめて低水準に据え置かれています。
施設や条件面でも、児童福祉法で言う保育所の基準を満たしていなくても
開設はできますが、財政面での補助は、公立や私立の認可保育園の数分の一から
10分の一以下にまで減額されてしまいます。



 無認可の「なでしこ保育園」では、
ゼロ歳児や一歳児の保育が多いために、その結果として諸経費がかさみます。
それが、そのまま保育料にもはねかえります。
これらは、無認可ゆえの苦しい台所事情といえました。



 「なでしこ」では、次の目標として、
現在の共同保育園をさらに成長させ、国の基準を満たした
認可保育園の建設を目指すことが、利用者たちを中心に決まります。
そしてそのための準備室が、職員と父兄たちによって開設されました。




そのきっかけとなったのが、
病院で看護婦として勤めているレイコの同級生、近藤靖子の双子の出産でした。
病院では「子供ができたら退職をする」と言う、不文律があります。
働き続けるために、病院内での共同保育所の開設運動も始まっていましたが
とても双子の出産までには間に合いそうもありません。
子宝には恵まれたものの、国鉄勤務の旦那さんと共に、
靖子さんはその進退に極まっていました。



 「どのようにして双子を育てればよいのか、
勤めをやめるべきか、続けるべきか」と、近藤夫妻は悩みます。
「この子たちのためにも勤めは続けよう。
子どもを立派に育てながら、勤めも立派にやっていける方法はないのか」
と、仕事と保育の両立する道を模索しはじめました。



 しかし市内に有るどの保育園に問い合わせても、
乳幼児やゼロ歳児を預かってくれるところはありません。
この時点で、家族が増えるという喜びとは裏腹に、近藤家は
一瞬にして保育難民になってしまいました。


 困り果てた靖子が、大きなおなかを抱えて最後にたどりついたのが
古民家で再スタートをしたばかりの、無認可の「なでしこ保育園」です。
にこやかに出迎えたのは、同級生の美千子でした。




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