市川海老蔵降板による代役として外郎売を演じた愛之助さん。
観たかったですね。
市川宗家のお家芸である外郎売、海老蔵さんの出演を望まれた方も多かったことと思いますが、市川家以外の人が外郎売を演じるのは珍しいこと、そういう意味ではとてもレアな公演になったことと思います。
歴史に残る公演を生で見られた人はラッキーですね。
外郎売に関しては現団十郎さんと現海老蔵さんが新之助時代に演じるのを見たことがあります。
現団十郎さんは滑舌が悪くもごもごして聞きとれない感じで、海老蔵さんの方はまだ若くて芸がこなれていないようでしたが滑舌が良いので団十郎さんよりはまだ聞きやすかったという印象があります。
一般的に市川家のお家芸である歌舞伎十八番は市川家の人間しか演じられないと思われているようですが、今回の代役で市川家の人間でなくても誰でも支障なく演じられるんだということが露呈してしまいました。
公演目前での代役、それをものともせずにやり遂げた愛之助さんの外郎売と市川宗家の外郎売、どちらが優れているのか見比べられないのが残念です。
代役を務めた片岡愛之助さんは元々は梨園の御曹司ではなく、一般の家庭から片岡一門の弟子となり、その後片岡秀太郎さんの養子となって片岡家の一員になった方です。
そのため、梨園の御曹司なら3,4歳からはじめさせられる様々な稽古も途中からはじめることになったハンデを乗り越えた苦労人です。
このような方が生まれたときから宗家のトップと決まっている人に代わって舞台に立つというのは歌舞伎よりも歌舞伎的な痛快さがあります。
今まで宗家の座に安穏としていた市川家、芸の上では代々の団十郎とだけ比較をされていましたが、これからはそうはいかなくなるでしょう。
今回の降板では海老蔵さんの素行の悪さとか、宗家としての品格が問われることになりますが、演目を変更せずに(公演がまじか過ぎて演目の変更ができなかったのかもしれませんが)代役を立てたことによって市川宗家の存在価値自体が問われる結果となってしまった気がします。
梨園でなければ良い役に就けないという今の制度自体が変わっていくきっかけになるかもしれません。
梨園の御曹司だから芝居がうまいとは限りませんから、観客としては本当に良い芝居をする人を観たいものです。
芸とは本来そういうものでしょう。
それから、片岡愛之助さん、現在の芸風は片岡仁左衛門さんをリスペクトしているらしく相当仁左衛門さんに似ています。
仁左衛門ファンとしてはその芸風の跡継ぎとして期待しますが、ビジュアルも背丈も仁左衛門さんとは違いますから愛之助さんならではの芸風も開拓してほしいものです。



