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盤上の向日葵

2021年04月06日 | 

2018年本屋大賞第2位。将棋の世界を舞台に重厚な人間ドラマを描いた、長編ミステリーです。

柚月裕子「盤上の向日葵」(上) (下)

年末に実家を訪れた時に、偶然TVでやっていたドラマが思いの他おもしろく「砂の器」を思わせる展開にぐいぐいと引き込まれました。思わずタイトルをチェックしたら、後から原作があることを知り、読んでみたくなりました。

page turner とは、まさにこういう小説をいうのでしょう。私は将棋の知識はまったくないですが、それでも十分楽しめました。文庫版の下巻の初版が出版された際に、大量の誤植が発覚し、100カ所以上の正誤表が発表されたことも話題になっていたようです。^^;

中公文庫「盤上の向日葵」に大量誤植 先手と後手が逆 (朝日新聞デジタル)

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私は文庫で読んだのですが、静の上巻、動の下巻というくらいテイストががらりと変わっていて驚きました。上巻では、埼玉県の山中で名匠の将棋駒を抱いた白骨死体が発見され、事件の核となる駒の持ち主を探る2人の刑事の物語と

将棋界に彗星のように現れた異端の天才棋士、上条桂介の不幸な生い立ちの物語とが交互に進行していきます。砂の器のセオリーから、桂介が事件に関わっているであろうことは容易に想像がつきますが、下巻での一筋縄ではいかない結末にうなりました。

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下巻の中で私が一番好きな場面は、東京大学に入学した桂介が将棋部を訪ねるところです。私はなぜか「シェーン」のような西部劇を思い出しました。

はぐれもののガンマンが、荒野の酒場を訪れると、そこでは荒くれどもが遠巻きにこのガンマンを値踏みしている。やがてリーダーがガンマンに勝負を挑むと、仲間の一人がリーダーに近づき ”手加減してやれよ” とそっと耳打ちする... そんな場面が思い浮かびました。

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でも私は、この後に登場する真剣師、東明重慶のことはどうしても好きになれなかったです。彼には小池重明という実在のモデルがいるそうで、人間としてはクズだけど、棋士としてはどうしようもなく魅力的な人物ということになっていますが

いやいや、人間としてクズというだけで、私としては受け入れられませんから。^^; 桂介が東明に出会わなかったら、彼はもっと違った人生を歩んでいたのではないか、と思わずにはいられませんでした。

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私にとって将棋というのは、冷静沈着、知的な頭脳ゲームというイメージでしたが、実は格闘技のような激しい世界もあるのだということを、この作品によってはじめて知りました。

オール読物 2021年2月号

特集「将棋」を読む で、作家の黒川博行さんと柚月裕子さんの対談があったので図書館で借りてきました。小説を読んだ後のデザート感覚で、こちらも楽しめました。

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