1980年代、カルフォルニアからアーカンソー州の農村地帯に引越してきた、韓国系移民の家族の苦労を描いた物語です。
アカデミー賞の有力候補のひとつで、良質な小品を数々世に送り出している A24 と PLAN B がプロデュースしている作品とあれば、否が応でも期待が高まりますが、その期待を上回る、静かに心を震わせるすばらしい作品でした。
映画の中ではさまざまな問題が家族を襲いますが、柔らかい色調に彩られた映像は美しく、ことさらにドラマティックに事を荒立てることもなく、淡々と物語が進んでいくので、見終えた時にはむしろあっけなく感じたほど。
でもそれからじわじわと感動が広がって、気がつけば胸が締めつけられるような気持ちでいっぱいになっていました。今から20数年前、初めてアメリカ・バージニア州で暮らしはじめた頃の記憶が少しずつよみがえりました。
映画のアーカンソーほど田舎ではないけれど、日本人がほとんどいない、日本の食材もほとんど手に入らない場所で、苦労を苦労と思わなかったのは、会社のバックアップがあったこともあるし、若さゆえのバイタリティと、ノー天気が性格が幸いしたのかもしれません。^^
サザン・ホスピタリティと呼ばれる南部の人たちの温かさを、映画を見ながら思い出しました。
住む場所を決めるのに、医療と教育を第一に考える母親と、農業で生活基盤を築こうとする父親。家族を大切に思う気持ちは同じなのに、方向性が違ってしまうのは、洋の東西を問わず、ありがちなエピソード。
祖母が娘を思って、はるばる故郷から唐辛子と煮干し(そして現金も)を持ってくる場面もぐっときました。字も読めないし、家事もできないという設定でしたが、ひとりで韓国から飛行機に乗って(おそらくトランジットで)やってくるだけでもすごいことです。
祖母の存在がコメディリリーフというか、いいアクセントになっているなーと思いました。
あと忘れてはいけないのは教会の存在。私も今は幽霊クリスチャンですが、当時はアメリカの教会にもちゃんと通っていたので、映画に登場する、教会の善意あふれる人たちがとても懐かしかった。
それから東洋人の女性は、アメリカ社会にいるとほんとうに子供みたいに見られてしまうのよね、というのも思い出しました。当時は私もお酒を買うたびに、IDを見せて、と言われたものでした。(さすがに2度目のニューヨークの時にはそれはなかったけれど)
アメリカ人とのつきあいよりも、むしろ同胞とのつきあいの難しさが、さりげなく描写されていたのもあるあるでした。
映画の感想というより、私の思い出話になってしまいましたが、本作を見て、私と同じようにアメリカにやってきた頃のことを思い出したアメリカ人はきっと多かったのではないかと想像します。
アメリカでここのところ再熱している人種差別問題に心を痛め、多くの人に、アメリカがどういう国であったかを思い出してほしいと願わずにはいられませんでした。