記事にするのがすっかり遅くなりましたが、GWに若手実力派ピアニスト 實川 風 (じつかわ かおる) さんのピアノ・リサイタルに行ってまいりました。場所は紀尾井ホールです。
實川さんが演奏するショスタコーヴィチを偶然SNSで聴いた時、見た目の柔らかい雰囲気からは想像できない意外な選曲、そして骨太の力強い演奏が心に刻まれ、一度じっくり演奏を聴いてみたいと思っていました。
会場となる紀尾井ホールは、紀尾井町にあるこじんまりとした木目の美しいホール。演奏者との距離が近いので、音楽とひとつになるような親密感を感じる一方、適度な大きさもあるので、音の響きがすばらしく、音楽に包まれるような感動を味わいました。
この日實川さんが選ばれたピアノは、ベーゼンドルファー・Model 280VC。深々とした森に響き渡るような温かさと力強さが感じられ、實川さんの演奏と、この日のプログラムによく合っているように思いました。
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第21番 ハ長調「ワルトシュタイン」op.53
ショパン:ピアノソナタ第2番 変ロ短調「葬送」op.35
---- intermission ----
ファリャ:アンダルシア幻想曲
ドビュッシー:前奏曲集 第1集より 沈める寺
プロコフィエフ:ピアノソナタ 第7番「戦争ソナタ」op.83
この日のプログラムは、ショスタコーヴィチはなかったものの、やはり渋い、骨太の選曲で、お客様にあわせるというよりは、實川さんの弾きたい、伝えたいという思いが伝わってくるラインナップでした。
プログラムノートによると、實川さんは「最初にベートーヴェンのワルトシュタインを弾きたい」というのがあり、そこからそれに対抗できるソナタとしてショパンの「葬送」といった具合に、曲を選んでいったとのことですが
私は勝手に、昨今の世界の情勢に思いを寄せた、祈りのようなメッセージと受け止めてしまいましたが、考えすぎでしょうか。どれも重めの作品ではあるけれど、ロマン派や印象派の音楽が好きな私にはとっても楽しめました。
---- uncore ----
シューベルト:4つの即興曲op.90 D899より第3番変ト長調
J.S.バッハ:フランス組曲第2番ハ短調BWV813より第1曲アルマンド
ドビュッシー:12のエチュードL.136より第1集 第6番「8本の指のための」
アンコールもバラエティに富んだ、やはり渋めの選曲です。思いがけずたくさん弾いてくださってうれしかった。最後のドビュッシーを弾いた後に、これでおしまい、という風に微かなジェスチャで示してくれる礼儀正しさに思わずにこり。心豊かになるひとときでした。