植物学者ディーリア・オーエンズの小説で世界的ベストセラー。映画「ザリガニの鳴くところ」(Where the Crawdads Sing) の原作です。映画の感想はこちら。
ディーリア・オーエンズ 友廣純訳「ザリガニの鳴くところ」(Where the Crawdads Sing)
原作を読み始めたところで先に映画を見て、その後に続きを読み終えました。決して難しい小説ではありませんが、時系列が激しく前後する上に (でも年号が入っているのでわかりやすい) ミステリー、ロマンス、ネイチャー、法廷劇、貧困・差別等の社会問題と
アメリカ特有のいろいろな題材が盛り込まれているので、映画を先に見ておくと、小説の世界に入っていきやすいかもしれません。長編なので読み終えるのに時間がかかりましたが、ゆっくりじっくり味わいながら読みました。
映画の行間を味わう
映画もとてもよくできていましたが、2時間の作品に収めるために、どうしても速足になってしまうのは否めない。映画では、テイトが去ってカイアがすぐにチェイスに心移りをしたように見えてしまいましたが、小説を読んで、彼女の中にはこれまでの長年の孤独と決別したい
という強い想いがあったのだと理解しました。それに映画を見ると、マリアはカイアを捨てたひどい母親のように思えましたが、それまでの、そしてそれからのマリアの壮絶な人生を小説によって知り、誰もマリアを責めることはできないと納得しました。
映画を見た時に感じた、カイアがテイトからちょっと読み書きを教わったくらいで、生物学の本が書けるようになるの?という疑問も、小説を読むと、カイアの湿地への愛と、自然への興味、学ぶことへの情熱が全編にわたってあり、自然なこととして理解できました。
カイアの心の中、心の動きなど、映画では描ききれない行間の部分が、小説ではていねいに描かれていて、自然と感情移入できました。
父への思い、母への思い
私が衝撃とともに一気に心をつかまれたのは、カイアの兄ジョディが帰ってくる場面です。映画では描かれていませんでしたが、ジョディの顔には大きく目立つ傷跡がありました。その傷跡を見てカイアはジョディだとひと目で知るのです。
そのとたん、カイアが封印していた壮絶な過去が、一気に記憶から蘇る描写は、圧巻のひとことでした。それからジョディによって明かされる、母のその後の人生も衝撃的でした。
しかし、どんなにひどい父親であっても、カイアが「ボートの乗り方を教えてくれた」と完全には憎んでいないことが意外でした。親を憎むことは、自分の存在を否定することだからかもしれない、と思いました。
一方カイアは、あれほど愛していた母親に対し「それでも迎えに来ることはできたはずだ」と批判の姿勢をくずしませんでした。しかしその後、カイアは母と同じ恐怖を味わったことで、初めて母が逃げざるを得なかったことを理解したのです。
殺意の芽生え
私はミステリーで一番大事なのは「動機」だと思っています。どんなにストーリーがおもしろくても、動機が弱いと共感できないから。その点、この作品は動機の描写もみごとでした。
カイアは、チェイスに追われ、抵抗できないほどの暴力を受けて、初めて母が味わった恐怖を理解します。その後、交尾をしかけてきたオスのカマキリを受け入れつつ、頭から食いちぎるメスのカマキリを目にして、カイアに初めて殺意が生まれたのでした。
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もちろん、アメリカ南部の自然、ジャンピン夫婦との交流、人道的な弁護士トム・ミルトン、テイトの支えと愛情など、本作の魅力はたくさんあるのですが、ちょっと違った角度から感想を書いてみました。
ザリガニ、ようやく読了しました。
深々とした余韻の残るいい小説でした。
自然の営みによって、カイアの心の動きを描写するところは
生物学者であるこの作家さんならではの表現、と心に残りました。
ごみつさん、映画未見でしたか。
機会がありましたら、是非是非ご覧になってみてください☆
「ザリガニ」、小説、読了されたんですね。
なかなか良く出来た小説でしたよね。
ミステリーではあるのだけれど、人間の心理の深いところまで描いているところと、その人間の物語を、何となく生物学的な視点から描いているところにも驚かされました。
私、映画が未見なんですよね~。早く見たくなりました。o(^o^)o
latifaさんもこの小説読んでいらしたのですね。
(ひょっとして...と思っていました。)
早速ページを見つけたので、後でおじゃまします。^^
映画は映画ですばらしかったですが、小説を読むと、映画では事実の描写になってしまったところがていねいに描かれていて、カイアや登場人物たちの心情にじっくり寄り添うことができたように思います。
そして、latifaさんも同じ箇所で同じように思われたのですね!
気持ちが共有できてうれしいです☆
PS 「空白を満たしなさい」ドラマもすごくよさそうですね。NHKオンデマンドで見ることができるようですが、登録しようかどうしようか悩みます。アマプラでそのうち取り上げてくれるとうれしいのですが。
ロケのシーンも見てみたいです。
小説、長編でしたが、読み終えた時、深い満足感に包まれました。
瞳さんが書いていらした詩のパートは、小説ならではで、味わい深い表現でしたね。
そしてなんといっても自然の営みによって、カイアの心情を描くところは、生物学者であるこの作家さんならではの表現だなーと心に響きました。
映画は小説に比べるとどうしても急ぎ足になってしまいますが、それでも2時間にうまくまとまっていたように思います。
カイアが育った湿地の自然、生まれ育った家が映像で見ることができたし、映画は映画ですばらしかったですね。
映画も小説もそれぞれによかったです♪
ひどい父親だと、私などは憤慨してしまいましたが、それでもカイアにとっては生きる術を教えてくれた恩人でもあったのでしょうね。
映画を先に見ると、また原作を読み返したくなりますね。
お返事が遅くなってすみません。
(ひょっとして出だしだけ書いたところを間違ってアップしたところをご覧になられたでしょうか。^^;)
単行本で505頁、厚さ3cm近くあるので、なかなか持ち歩けなくて、読む時間もなかなか取れず、今になってしまいました。でもじっくり楽しみながら読めました。
殺意の描写は、私がそのように解釈しただけなのです。
手を下す描写はなく、映画と同じく、最後にテイトが貝のペンダントを見つけて、読者もすべてを理解する、という展開でしたよ。
私もコレ読んでます。
小説→映画の順番でしたが、やっぱり映画は2時間という枠なので小説の方が細かい処まで解ってより一層良かったです。
以下、私も同じに思いました!
>テイトが去ってカイアがすぐにチェイスに心移りをしたように見えてしまいましたが
>映画を見ると、マリアはカイアを捨てたひどい母親のように思えましたが
>お兄さんと再会のシーン(傷ではっとする)
小説版も映画も両方楽しませてもらえた作品でした。
PS ホテルなのですが、実はそのロケしたシーンの回は、思い入れがあって捨てずに今も保存してあるんです。
ドラマ→原作の順でしたが、先に見たせいかドラマ版もなかなか良かったです
「ザリガニの鳴くところ」読了されたのですね♪
私は小説を先に読んだのですが(図書館で借りました)かなり前に読んだので記憶が薄れているところもあります。
セレンさんのレビューを読んで今、ものすごく再読したくなりました。
映画の行間を味わう・・いいですね!!映画鑑賞後に読むと、映画では描ききれないところも補足しつつじっくりと読み取ることが出来ますよね。
父母への思い・・・そうでしたね。お父さんを完全には憎んでいなかったこと、私もすごく印象に残りました。沼地で生きるすべ(ボート)を教えてくれたことが彼女の中で大きいのかな?とも想像しました。
殺意の芽生え・・・沼地で生きる動物たちに生きるすべを教わったカイアならではの芽生えでしたよね。
セレンさんの3つの角度からのレビュー、とても興味深かったです。
小説レビューの続き、待ってました!とても興味深くレビュー読ませていただきましたょ☆
それにしてもセレンさんが読むのに長くかかるって、相当な長編だぁ・・・
やっぱり映画では描き切れない部分が、実はとっても大事なところだったってことなのね?久しぶりに会った兄をすぐ判るっていうのも「え~?」と思ってたんだけど、そういった理由があったのか~~と分かって良かったです。
小説では殺意が生まれた部分も書かれているのですね?実際手を下したところもあるのかしら?
この冬じっくり読んでみようかなww