教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

『おおきく振りかぶって』から学んだ目標設定の具体化方法

2008年05月31日 23時55分55秒 | 教育研究メモ
 今日は3週間ぶりにゆっくり休みました。で、記事の内容も趣味まるだしで(笑)。
 私は昔から『アフタヌーン』(講談社)という月刊マンガ雑誌をよく読んでおり、数年前から大好きな作品があります。それは、ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』という高校野球を題材にした作品です。私は、野球そのものに興味があるというよりも(そのものも面白いですが)、登場人物の心理描写・純粋さ・行動と選手たちの育成方法とに興味があって読んでいます。作者のひぐちさんは大学時代にスポーツ心理学を学んでいたそうです。選手の心理面での育成・成長過程がよく描かれていて、これがまた非常に面白いんです。スポーツの場面だけでなく、一般生活の上でも質の高い生活をする上でとても参考になることも多くあります。(リラックス理論とか「うまそう!」とか(笑))
 今回記事を書きたくてたまらなくなったのも、『アフタヌーン』7月号の掲載分に非常に興味を惹かれる育成方法が描かれていたからでした。それは、「目標設定用紙」というものを子どもたちに書かせるシーンです。数日前の夏大会初出場・初敗退を受けて将来に向けてチームの目標を一致させよう、というちょっと前からの流れがあったのですが、選手たちは真剣に自分の目標を考えようとします。そこで、監督は「自分を一番ムダなく成長させる方法」を具体的にイメージさせるために、選手たち「目標設定用紙(結果目標)」と書かれた紙を書かせました。その用紙には、人生の目標とスポーツの目標について、夢のような目標から今日の目標まで、制限時間10分で書くようになっていました。選手の中には制限時間内に書ける子も書けない子もいますが、書けなかった子も真剣に目標を考えるようになります。チーム目標の話し合いの際に少し消極的だった沖くんは、10分で書ききれずにもう3分書かせてもらいたいと求めました。そこで、監督から理由を説明させられるのですが、彼は次のように言います。
「オ…レ でかい目標に向かって やっていきたいって やっと思えた…ので はじめから つまずきたく ないです!」
 この方法は、マンガ内のことではありますが、スポーツ選手に限らず学生生徒を教育させたり自分を成長させる上で、とても有意義な方法のように思いました。ちょっと調べてみたのですが、この方法は原田隆史氏の陸上競技の指導実践法「長期目標設定用紙」に似ているようです。自主的に目標達成を目指す選手を育成するため、目標達成のイメージを具体化する方法だそうです。原田氏の実践のなかでのこの用紙は一部にすぎないようですが、この用紙を書くだけでも人生変わってくるように私は思います。(2010.6.27追記:ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』第15巻(講談社、2010年、巻末おまけ)によると、ひぐちさん自身は高妻容一氏から学んだものだそうです)
 前置きがずいぶん長くなりましたが、『おおきく振りかぶって』のなかで描かれた「目標設定用紙(結果目標)」を、ちょっと紹介してみたいと思って、今日は記事を書きました。それぞれの目標にそれぞれ「人生の目標」と「スポーツの目標」を書き込んでいくものです。「スポーツの目標」を「仕事の目標」に置き換えたのが下のものです。さらに下には、作中で何人かの選手が書いていた目標を例として挙げました。必ず上(「夢のような目標」)から書くのが大事で、内容が変わることを前提に毎月1回書くものだそうです。制限時間10分で計30マス(1マス20秒)で書くというのもトレーニングの一環だそうですよ。私もこっそりやってみたいと思います(笑)。↓

目標設定用紙(結果目標)
制限時間10分
            │   人生の目標   │   仕事の目標   │
夢のような目標
最低限度の目標
50年後の目標
30年後の目標
10年後の目標
5年後の目標
4年後の目標
3年後の目標
2年後の目標
1年後の目標
今年の目標
半年の目標
今月の目標
今週の目標
今日の目標

****************
〈キャプテンの花井くんの目標〉
夢のような目標  野球でメシを食う
最低限の目標   子どもとキャッチボールする
50年後の目標   孫とキャッチボールする
30年後の目標   現役でどっかのチームに所属している(スタメン)
  (この間は不明)
半年の目標    フェンス越えできるパワーをつける
今月の目標    合宿成功させて新人戦優勝!
今週の目標    三橋のカーブを体の前でとらえる!
          (三橋はこのチームのピッチャーの名前)
今日の目標    監督の課題についていく!
 →これを書いた後の花井くんは、気持ちをきかれて「なんでもやったるって気持ちです!」と答えます(^_^)。

〈優秀なバッターの田島くんのもの〉
5年後の目標  神宮優勝 首位打者3年連続
4年後の目標  神宮優勝 連続首位打者
3年後の目標  神宮初優勝
  (この間は不明)
今週の目標   140km/hを完璧タイミングでとらえて外野の頭 越す!
今日の目標   140km/h全球ミート!

〈たぶん外野手の水谷くんのもの〉
今月の目標   100%飛球…
今週の目標   フライをとって…0.5秒ちぢめる
今日の目標   確実に落下点…あきらめない
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茨城・水戸の印象

2008年05月26日 20時41分46秒 | Weblog
 水戸から帰ってきました。たくさんの歴史的遺産を守る地方都市、という印象でした。
 学会司会の務めは、何とか果たすことができたのではないかと思います。
 学会1日目の会場でもあった茨城県立歴史館は、なかなか充実・整理された展示で非常に勉強になりました。茨城(常陸国)は霞ヶ浦などの水運によって発展したように説明されていたことが一番印象的でした。昔の文化発展・人的交流の鍵は、やはり船なのだなぁ。
 なにより、関東円内とはいえ、水戸は東京から結構離れていることを体感しました。交通の発達した今でもこうなのだから、昔の人々はもっと遠く感じたのだろうなぁ。
 今日も当然仕事です。休日無し3週間目突入。ちょっと疲れがたまってきました。今週の土日までがんばれば、久しぶりの休みがとれる…
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水戸に行ってきます

2008年05月23日 22時43分41秒 | Weblog
 仕事をやっていたら、あっという間に1週間経ってしまいました。
 明日明後日は茨城県水戸市の常磐大学で開催される、全国地方教育史学会第31回大会に参加してきます。学会の司会を生まれて初めて務めることになっています。私ともう一人の先生との2人で、明治中期の小学校教員に関する研究発表部会の司会を務めます。発表を聴いて勉強して、少しでも発表者の研究を進めるような司会進行ができたらいいなぁと思っています。少なくとも足手まといにはならないようにしなければ…
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有意義な冷や汗―仙台での研究会

2008年05月20日 19時37分15秒 | Weblog
 仙台行ってきました。研究会の先生方と久しぶりに交流できて、とても嬉しかったなぁ。なお、祭りはほとんど見られませんでした。そして、火曜に至って、ようやく長距離移動の疲れがとれてきたかな(笑)。
 発表は、私としては有意義なものになったと思います。随分つっこまれて相当冷や汗をかきましたが、研究内容の深化につながる意見ばかりでした。これからだいぶ調べ直して、書き直す必要があります。
 研究会での質疑応答や研究会後の先生方との会話を通して、自分の発表の意味を再確認させていただきました。教育会の活動は、ナマの人間の関係から生み出されるものなのだから、教育会研究において「気脈を通じる」ということの意味をもっと重くみるべきではないか。当時のナマの教育会員にとって、「中央」とは何か、または「地方」とは何か。私の発表では、これらの問題が大事なところでした。
 残念ながら発表の仕方が悪かったので、上記のような内容が十分に伝わらなかったかもしれません。記すべき情報も、的確な情報を欠いていたと質疑応答を受けながら感じていました。論文にする時には、そこのところを気をつけて書き上げたいと思います。
 何にしろ、遠くまで行った甲斐がありました。この実感は、研究会に参加してくださった先生方のおかげで得られたものだと思います。
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土日は在仙台

2008年05月16日 20時32分59秒 | Weblog
 仕事との同時並行で、何とか発表準備完了。できあがりはいつものようにギリギリです。
 明日早朝、新幹線で発ち、昼すぎに仙台に着く予定です。早く寝ないと乗り遅れるな。1泊2日で在仙台。飛行機のパック旅行にすれば安くて早いのですが、あいにく本日金曜日には仕事が飛び込んでくるのがわかっていたので、どうしても土曜日にこちらを発たないといけなかったのです。広島-仙台の飛行機は1日に昼間の1便しかなく、向こうに着く時は夕方になってしまうし、パックでなければ飛行機より新幹線の方が安いみたいです。のぞみ早割(広島-東京)を使って、少しでも工夫して安くしてみました。
 前の記事についたタカキさんのコメントにもありましたが、仙台の土日はお祭り真っ最中のようです。移動には余裕を持たせておいた方がいいかな。
 青葉祭りというそうですが、仙台藩の東照宮のお祭りが明治に入って伊達政宗の祭りになったものを由来とするとか。明治時代にはたくさんの英雄が祭り上げられましたが、仙台だとやはり伊達政宗なのですね。学校の修身・読本・歴史・郷土などのために政宗の教材化も、やはり進んだのでしょうか。
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「帝国議会開設前の教育社会」を認識する

2008年05月14日 00時28分18秒 | Weblog
 『科学史研究』の初校は完了し、すでに編集委員会に送り返しました。目下、17日(土)の発表を準備中です。まだ出来ていませんが、まずまず面白いものが出来つつあると思われます。今日明日中には…できるハズ。手のかかる仕事が重なってなくてよかった。
 東北での発表は、題目「全国教育者大集会の開催背景―帝国議会開設前の大日本教育会における『東京』と『関西』の問題」というかわった題目です。論じたいことを簡単に述べてみましょう。すなわち、明治23年の帝国議会開設前に輿論形成の体制を整えなくてはならなかった教育社会では、大日本教育会における輿論形成体制の問題として、「東京」と「関西」の問題が浮上してきました。この問題を背景として、大日本教育会は全国教育者大集会を開催します。従来は「東京」での輿論形成で満足していた(ふりをしていた?)教育社会が、帝国議会開設による国レベルでの議会政治の開始と地方の教育関係者の輿論形成主体としての意識の芽生えという時代状況に従って変化していく歴史の一コマを論じようというのが、本発表内容です。
 私たちは「教育社会」という言葉を知っていて、そこに一つの意思を感じます。「教育社会」というものは確かに存在するようですが、では「教育社会とは何か」と問われると、答えられそうで答えられないように思います。「日本の教育社会とは何か」を追求する研究は、「教育とは何か」という教育学の問いにつながる重要な問いだと思います。この問題意識に基づき、「帝国議会開設前の教育社会」という空間・意味を、出来る限り認識できるように論じてみよう、というのが今回の発表の根本的な動機です。
 レジュメにはなかなか著しがたい根っこの部分なので、ここで練り出してしてみました。
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「生きる」ための出発点

2008年05月04日 23時55分55秒 | 教育研究メモ
 私は、2005年から日記をつけ始め、やがてブログを書き始めました。ホームページの更新代わりだとか、日記の三日坊主の防止など、ブログを始めた理由はあまり面白くない理由でしたが、いつもその内容は自らの生活を見つめ直し、よりよい生き方を模索するものだったと思っています。昨年以来、ブログを始めた頃とは比べものにならないくらいの重い責任を負うことになり、従来のように好き勝手に毎日書くことができなくなりました。しかし、書いている内容は実質昔と同じだと思います。今でも、今の自分に表現できる範囲で、自分の生活を振り返り、自分の生活をより前進させようとしているのです。
 最近たまに、気分転換に無着成恭編『山びこ学校』岩波文庫、1995年(青銅社の初版は1951年)を読んでいました。昨日、読み終わったところです。『山びこ学校』に所収されている中学生の綴方は、1950年前後の山形県の山村における子どものくらしを生々しく感じさせるものでした。貧しさに苦しむ中で明るく生きている子どもの姿が思い浮かべる度に、あぁ人間は社会を憎むことで生きていけるのではなく、苦しいながらも今を楽しんで生きていけるんだと思いました。そして、彼らの「今」を彼ら自身が丁寧に見つめることで、現在や将来、彼らがどうすべきか知っていく様を見て、現状認識の重要性に改めて気づかされました。
 日本の教育方法には、生活綴方(つづりかた)というものがあります。生活綴方とは、子どもに自らの生活や自らの環境をつぶさに観察させ、書き記させることによって、自らを表現する力を身につけさせるとともに、自らを取り巻く問題を考え、解決する糸口を見出させる教育だと、私は解釈しています。理想と現実の間の矛盾を気づく「概念くだき」だけでは十分ではなく(現実に絶望することで終わりではない)、現実の問題と条件の正確な認識に基づいて解決策を模索することこそ、生活綴方の到達点なのだと思います。自らの生き方と自らをとりまく現実を丁寧に見つめさせ、今よりもよりよい生き方を模索させるのだと思います。
 岩波文庫版『山びこ学校』の鶴見和子氏の「解説」を読んで、この実践が行われていた1950年代の同時期に、「生活記録」という成人版の生活綴方が行われていたことを知りました。そのとき、私のブログも「生活記録」ではないかとふと思いました。私の場合は指導者がとくにいるわけではありませんが、私のブログは単なる日記ではなく、自分の生活を見直して、生活改善の方策を模索するものです。また、多くの読者に、陰に陽に教えられ、支えられてきました。このブログのおかげで、要所要所で、自分の進むべき方向を見出すことができたと思っています。
 今の世の中は、絶対的な生きる指針(価値)はなく、建前と現実が大きく離れていて、自分はどう生きていくべきかわからなくなりがちです。自分の進むべき方向がわからないならば、今の自分の生活を丁寧に見つめ、周りの人々や書物などからヒントを得ながら、自分で自分の生活をよりよくしていくしかないのだと思います。『山びこ学校』を読んで、1950年前後の山形の山村の中学生が自らの生活を綴りながら自分なりの答えを紡ぎ出していく様を見ていくうちに、そんなことまで考えていました。自分の生き方は自分で見出していくしかないけれど、それは何もないところから見出すのではなく、今の自分の生活を土台にして見出すものだと思います。
 自分の人生は、誰かに与えられるものではありません。自分はどんな生き方をしているのか。どんなところで、どんな状況下で生きているのか。それらを少しでも正確に知ることこそ、将来の自分を作り出す出発点なのだろうと思います。教員は、受持の児童生徒学生の今と将来を左右する重要な職にあるとともに、自らの人生を生きています。今の世の教員は、児童生徒学生が自らの生活を見直す手助けをするとともに、教員自身もまた自らの生活を見直すことが必要なのではないでしょうか。
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5月の研究関連のしごと

2008年05月03日 13時24分05秒 | Weblog
 この最近は、研究・勉強の時間を作り出すのに精一杯で、内容をまとめる時間がないといったところです。GWは研究・勉強するんだっ!
 5月は、研究にも忙しい毎日になりそうです。研究関連では、本の内容をまとめるよりもしなきゃいけないことが、以下のようにズラリと。

1.日本科学史学会編『科学史研究』に掲載される論文の初校。(掲載号はまだ不明、15日〆切)
  題目「1880年代における西村貞の理学観の社会的役割―大日本学術奨励会構想と大日本教育会改革に注目して」
2.東北大学で開催される教育情報回路研究会第7回全体研究会での発表の準備。(17日発表)
  題目「全国教育者大集会の開催背景―帝国議会開設前の大日本教育会における「東京」と「関西」の問題」
3.常磐大学(茨城)で開催される全国地方教育史学会第31回大会の研究発表部会での司会の準備。(25日)
  おおよその部会テーマ「教育令期」「明治20年代」「明治30年代」「小学校教員検定試験」「教員資格」「師範学校」…

 5月後半は土日無し。大変ですが…話を持ってこられる内が華。がんばりましょう!
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