
旅の3日目。「本体」は金沢を見物して久留米に戻りますが、僕は1人離脱、アルペンルートを経由して松本を目指します。
昨日、一旦回復した天気でしたが、今朝は再び悪化。富山、石川の県境付近では大雨で、帰省ラッシュの最中というのに北陸本線はストップしてしまいました。幸いほどなく再開したようで、「本体」も金沢を楽しむことはできたそうです。

富山地方鉄道は通常運行で、ほっと安心。観光列車「ダブルデッカーエキスプレス」で、立山を目指します。京阪から移籍してきた車両で、塗装や、描かれた時代祭行列の絵がそのままなのは、「あえて」なのでしょう。
京阪時代は特別料金不要で乗れる自由席車でしたが、地鉄では特急料金+指定料金がかかります。とはいえ合わせて420円なので、大きな負担ではありません。

室内の調度はデラックスな雰囲気で、京阪時代は料金不要だったとは驚きです。2階建の眺望を確保するため、座席の背もたれは低く抑えられています。
なお座席は集団離反型…室内中央を境に前後に向いた形に固定されており、向きを変えることはできません。やはり評判はよくなかったようで、京阪の後継車両では改良されています。

指定券は1ヶ月前の発売日に抑えており、整理番号は1番。おかげで前向き、窓に柱なし、立山側という、まさに「立山あおぐ特等席」が充てられていました。しかし残念ながら雨模様。立山連峰は雲の中です。
これからアルペンルートを越えるのに、途中の車窓はあまり期待しない方がいいかも。客室乗務員さんは、晴れた日の写真を見せて慰めてくれました。案内自体は不慣れな感じですが、精いっぱいさは伝わってきて悪い気はしません。

立山到着。手持ちのICカード「Passca」の残高が不足していたので、窓口にチャージを申し出たところ、10分近く待たされました。富山から遠く、回線の速度が遅いのだとか。独自のシステムであり、全国共通ICカードへの加盟は難しそうだなとも感じました。
窓口で長野県側・扇沢までの通し切符を買いましたが、第一走者の立山ケーブルカーは落雷のため運休状態。美女平からの高原バスが麓まで降りてきて、代行輸送を行うことになりました。バスの放送は代行輸送前提のものになっており、よくあることなのかも。

美女平を過ぎ、森の中を走っていたバスも、「高原バス」らしく次第に視界が広がってきました。高山植物揺れる草原の向こう側に、広大な富山の平野と日本海が広がります。

室堂駅着。外に出れば、澄んだ高原の空気に、雄大な立山が目の前にドーン! 気温は10度台前半、思わず持っていたカッパを着込みました。
標高2450m、この高さまでスニーカーで来られるのですから、公共交通機関とはすごいものです。

室堂から大観峰までは、再び「鉄道」の出番。架線から集電して走る「トロリーバス」も、無軌条電車に分類される鉄道の一つです。
見た目はまったくのバスなのに、走り出せば電車のようなモーター音がします。

バス1台がやっと通れるだけの幅しかないトンネルが、このバスの路線のすべて。専用道を走るバスということで、元祖BRTとも言えるのかもしれません。
対向車とのすれ違いは、トンネル中央の待避所で行います。数珠つなぎのバスがすれ違う様子も、鉄道的といえば鉄道的です。

立山の直下を抜け、大観峰へ。乗り継ぎを一休みして、屋上の展望台から黒部ダムを見下ろしました。雲の間を、ロープウェイが突き抜けて行きます。
ロープウェイの乗車待ちの間には、立山黒部貫光の社員さんらによる観光ガイドが。写真を手にギャグを交えながら説明してくれたのですが、そのまま自然な流れで写真集の販売に移り、なかなか商売上手な一面も見せてくれました。

黒部平から黒部湖へは、再びケーブルカーが登場。さまざまな乗り物を楽しめるのも、アルペンルートの面白さです。
黒部ケーブルカーは全線がトンネルの中で、地下鉄のようでした。

せっかく黒部ダムまで来たので、黒部湖を巡る遊覧船に乗ってみました。30分の航海で1,080円はなかなかの値段ですが、この場所まで燃料を運んでくる手間だけでも相当なもののはずなので、安易に高いと言ってはいけません。
屋根まで天窓が回り込んだ、眺めのいい船です。

ダム湖の周りには、国立公園の原生林が茂ります。
大観峰のロープウェイ乗り場は、はるか天空の彼方に。ラクラクと山を越えられることは、当たり前のようであり、驚異でもあります。

遊覧船を降り、黒部ダムを渡り展望台へ。相当な高さのはずなのにもはや恐怖を感じないのは、飛行機に乗った時に高所とは感じないことと同じなのかも。それほどのスケール感でした。
50~60年代にこれだけの建造物を完成させた技術と英知は、驚愕であり、見るものを圧倒します。

黒部ダムの賑わいは別格で、長野県側から黒部ダムまでを往復観光する人も多いようです。扇沢までの関西電力のトロリーバスの乗客も、バス5台でさばくほどの人数でした。
1996年に「電化」された立山トンネルと異なり、こちらは1964年の開業当初からトロリーバス。運転席の横には、通常のバスではありえない電圧計が並んでいます。

こちらも、トンネルのど真ん中で隊列になってすれ違い。

扇沢に到着、アルペンルートもここで終点です。ずらりと並んだバスは、大量輸送機関の風格を漂わせていました。

ほとんどの人がクルマで扇沢まで乗りつけてきたようで、トロリーバスの満員ぶりに比べれば、信濃大町行きのバスはガラガラでした。
信濃大町駅まで来れば電車も走り、下界に降りてきた気になりますが、ここもまだ標高700m超。吹く風は、爽やかな高原のものです。

信濃大町から松本へは、リゾートビューふるさと号の指定券を抑えていました。
ハイブリッドで動く最新鋭のリゾート気動車ですが、快速なので普通乗車券+520円の指定席券で乗ることができます。

リゾート気動車のウリは、ゆったりした座席に大きな窓、そして前後の展望席です。
車窓左手には、3000mを越える穂高の山並みが続きます。それでいて松本の通勤圏でもあり、沿線には住宅が張り付いていました。住むには素晴らしい環境だろうな~!

1時間の大名旅行を終え、松本駅着。東京方面へ雁行する特急列車を待つ、大勢の乗客。発車メロディ。Suica対応の自動改札機。きれいな自由通路を抜ければ、駅前では路上パフォーマンス。
一気に「首都圏」にまで来た錯覚に陥りました。

松本駅前から延びる、公園通り。フラッグが並ぶ並木道はおしゃれな雰囲気で、歩く人も多く見られます。とても「人口24万人の地方都市」とは思えません。

四柱神社の前には、門前町的な路地も。

街中には古い建築物が多く残り、しかもそれらが現役なのにも驚きます。何かの資料館かと思ったこの洋館、耳鼻咽喉科です。

旧第一銀行の建物は、増築してホテルに。

今日泊まるのも、味噌屋さんを改装した「カンデラゲストハウス」さん。味噌屋時代の看板も掲げられています。

談話室のテーブルも、味噌樽のフタを活かしたもの。自然と語らいの生まれる、いい雰囲気です。

短い松本での滞在。荷物を置いて、夜の街の探検に出かけました。水の豊かな土地で、あちこちに井戸があり、ざあざあと水の流れる音が聞こえてきます。昨年訪れた郡上八幡の人口が24万人になれば、こんな街になるのかなと思いました。
国宝・松本城も、お堀の水に逆さの姿を映し出していました。

城からもほど近い塩井の湯は、街中にありながら鉱泉を沸かした湯を使った銭湯です。こちらもレトロな雰囲気! 木のロッカーが並ぶ脱衣所は、ザ・銭湯といった趣です。
浴室は改装されていましたが、それでも湯船は昔ながらのモザイクタイルで残されていました。

湯上りは「想雲堂」へ。古本屋でありながら、本を読みながらコーヒーも飲めるブックカフェでもあります。

「和風スリランカカレー」を夕ご飯に。食後の一杯には、「よなよなビール」ブランドの「リアルエール」を頂きました。「よなよな」は全国区ですが、リアルエールは賞味期限1ヶ月の地域限定版。1ヶ月の間に刻々と味が変化していくのだそうです。
ゆっくりとビールを傾けつつ、日頃読まないようなちょっとアカデミックな本を手に取り、旅先での夜のひとときを過ごしました。