人間の病んだ心の仕組み、心の病の原因といろいろな症状、つまり八識と煩悩の話の後で、究極の健康状態になった心、つまり四智の話をすると、よく「四智なんて、自分の現状とはあまりにも差がありすぎて、確かにすばらしいけど、現実性のないただの理想論のように感じる」という感想が出てきます。
私はそれに対して、「寝たきりの病人に、回復のプロセスのていねいな説明抜きで突然、あなたはオリンピックに出て金メダルが取れるようになりますよ、と言っても信じられないようなものですね」と答えます。
まず、床の上に起き上がれるようになり、ベッドの手すりにすがって立てるようになり、歩行器を頼りに廊下をそろそろ歩けるようになり、松葉杖をついて歩く練習をし、かなり痛い思いもしながらしっかりリハビリをして、病院の庭くらいなら散歩できるようになり、退院してふつうの生活に戻れるようになり……というステップを踏んで健康を回復してから、ようやく軽いトレーニングができるようになります。
そのステップは人によってさまざまですが、それなりに時間がかかります。
「寝たきりから三日目で奇跡的な金メダル」なんていうことは、まあ起こらないでしょう。
しかし、1年、2年、3年とかけて、奇跡的に復帰する選手はいるものです。
それから、金メダルには到達できなくても、ふつう程度に健康な生活ができるようになる人はたくさんいます。
唯識では、八識の凡夫から四智の仏・覚った人への成長・変容は非常に長い時間をかけてステップを踏んでいく必要がある、と考えられています。
何年かがんばって修行して、ある時に一瞬はっと覚ったら、もうそれで終わり、というふうなことはないのです。
まず、いわば、自覚症状があって自分が病気であることに気づいて医者にかかり、診断を受け、病気とその治療法の説明を受ける段階があることになっています。
続いて、説明がしっかり納得できたので、実際の治療・リハビリを実行しはじめるという段階があります。
この2つのステップだけでも、相当に長い時間がかかるというのです。
なるべく手間と時間と費用をかけないでインスタントに治りたいと思うのは人情つまり凡夫の気持ちですが、唯識ドクターは「かけるものはかけないと治りませんよ」と一見クールに聞こえる、しかし本当にはいちばん親切なインフォームド・コンセントの手続きを踏んでくれます。
今、この連載記事でやっているのは、いわばそういう手続きです。
それから、ようやくベッドを離れて少しふらふらしながらでも歩けるようになるという感じの健康回復の本格的第一歩のステップに達します。
しかし、それからのリハビリが非常に長いというのです。
というか、リハビリからふつうの生活、それから軽いトレーニング、そして金メダルへの挑戦のためのハード・トレーニングと、回復のプロセスは切れ目なく続いていきます。
そして、そういう4つのステップを全部踏み切れたら、いわば金メダル的な完璧な健康、というか超健康のステップにも行けるかもしれない、というわけです。
その5つのステップを「五位(ごい)」といいます。
さて、この譬えで考えてみて、みなさんは、「どうせ金メダルまでは行けそうもない」と思った場合、「それなら、ずっと寝たきりでいい」とか思ったりされるでしょうか?
私は、たとえ金メダルは無理でも、がんばってリハビリして少なくとも健康なふつうの生活ができるレベルくらいまでは回復したいですし、できればジョギングか地域の運動会で走れるくらいにはなりたいと思います。
それは、単なる理想論ではなく、現実性のある到達目標なのではないでしょうか。
そして、そういう可能な到達目標の向こうに、かなわないかもしれない美しい夢として金メダルのレベルもあっていい、ということなのではないかと考えています。
さて、五位の1つ1つの段階については、次回から説明をしていくことにしましょう。
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