雨が多かった9月。
10日に、かみさんと77歳の義姉を連れて燕岳に登った。
この日は快晴だった。
新しい登山ブームが押し寄せているのだろうか。
三つある駐車場も満杯で、13キロ下にある臨時駐車場に車を止め、タクシーで入らざるを得なかった。
ひと頃はジジババが多かったが、若人たちの姿が目立った。特に山ガールの姿が多かった。街で見る若い女性たちはほとんど病的に生気がないように見えるが、山ではなんで生き生きと美しく見えるのだろう。
それに引き換え、山ボーイたちは山の雑誌から抜け出したようなファッションだが、どこか頼りなくなよなよした感じを受ける。
今や燕岳は北アルプス入門コースとして人気の山なのだろう。
義姉も長い間この山に登りたかった。
というのも、数年前、義姉に「燕岳に登ろう」と声をかけたが、天気が悪くて取りやめになった。
それ以来忘れていた。ところが姉は数年間、いつ連れて行ってくれるのだろうと、心待ちにしていた。
この夏、燕岳に登ったと話したところ、「えー、!!」ということになった。
そこで再び燕岳に行くことになった。
憧れの燕岳の山頂を踏めて義姉は大喜びした。
帰りは、中房温泉初のバスが既に4時で終わっており、15分間に合わなかった。
タクシー会社に電話すると、2時間くらいかかるとのこと。それなら、走って取りに行こうと、13キロの道を走った。ちょっとした田中陽希さん気分。1時間と少しで車まで行きついた。これまで何度も燕岳に登ったが、駐車場が満杯で止められないのは初めてだ。
それと、もう一つ気が付いたことがある。
山ガールの服装が、ひと頃のド派手な色使いから、シックな落ち着いた色に変わってきている。
いい傾向だと思う。
ただ、こんなに混雑した山は少しうんざりせざるを得なかった。
そこで、秋の長雨の合間を縫って、25日に一人の山旅に出かけた。
そこは、表銀座とも呼ばれる人気の常念山脈。
蝶ヶ岳、常念岳は槍穂高の展望台として人気の山だ。
華やかな二人の姉から少し離れて、ひっそりと佇む妹。その名は大滝山。
三股から蝶ヶ岳に登り、右に稜線をたどれば常念岳から大天井岳に続く。
反対に左に進めば、表銀座の喧騒から逃れて、古き良き時代の山を彷彿とさせる大滝山への道。
常念岳の雄姿。
蝶ヶ岳直下の分岐。大滝山への路を辿る人はほとんどいない。
2時間で蝶ヶ岳山頂。下山して来る人に槍は見えなかったと聞いた。だが、カーテンを開けるようにその姿を現してくれた。
この夏に登った穂高連峰も挨拶を送ってくれた。
池塘が点在して、青い空と、秋色に変わり始めた木々を映していた。
華やかな山から少し離れて、こんな豊かな風景がここにある。一人の、満ち足りた時間がゆったりと流れる。
大滝山の山頂が、たおやかな稜線の先にある。
華やかな姉たちの陰に隠れて、控えめだが、魅力たっぷりの妹の姿がここにある。
常念岳2,857メートル、蝶ヶ岳2,677メートル。それに比べても、決して挽けはとらない2,616メートルの標高を持つ。
この山は北峰と南峰の二つの山頂を持つ。
ここまで三股から3時間。
これで信州百名山は69座目。
昔ながらの素朴な山小屋。大滝山荘。こんなところに泊まって、原点に返ってみたい。
大滝山から蝶ヶ岳方面を望む。
秋の気配がそこはかとなく漂い、どこか物悲しく、それでいて落ち着いた雰囲気は、妙にこの山にあっていた。
一日だけ許された自由な時間。
かたはらに秋草の花語るらく 滅びしものは懐かしきかな
ふと、牧水の歌が浮かんだ。