以下は日本国民のみなならず世界中の人達が必読の月刊誌Hanadaに、新型コロナウイルスが暴いた真実、と題して掲載されたエドワード・ルトワック氏の論文からである。
世界中の人達には、私の英訳で出来るだけ伝える。
特に、昨夜のニュースで、私が知った、言語道断な事実、私達日本人に対して「コロナウイルス」等と攻撃しているというインドネシアの無知蒙昧な輩達に対しては、即刻、知らしめる。
取材・構成 奥山真司。見出し以外の文中強調は私。
最弱のイタリア
まず言っておきたいのは、今回のCOVID―19というウイルスの経済面でのインパクトは、世界のどこでも同じように感じられるはずだが、ウイルスへの対処の仕方は国ごとに大きく異なる点だ。
たとえば、主な経済大国のなかで最弱なのはイタリアだ。
すでにゼロ成長に入っていたところでウイルスの感染が始まったため、マイナス成長になることは必至だ。
イタリアが他の欧州の国々のような対処ができなかった理由は、感染が始まったまさにその時に、政治危機の真最中だったからだ。
実は、与党の連立政権は日々、崩壊しつつあり、政治家たちは文化的な伝統として党を巡る政争に明け暮れ、実際の統治をやる暇がなかったのだ。
私がイタリアを例に挙げたのは、弱い国家、とりわけ官僚的な統治機能が弱い国は、不釣り合いなほど大きな損害を受けていることを示したかったからである。
イタリアは経済的にも政治的にも大損害を受けている。
これはアメリカや日本などと比較すると、酷さがよくわかる。
日本は政府主導で、崖から飛び降りようとしていた逃げる馬のたてがみを引っ張って元に戻した。
東京株式市場が一時的に持ち直したのは、まさに政府が動いた結果だ。
イタリアのケースでは、政府の政治家たちはガバナンスを拒否し、とにかくこの三ヵ月で新しい政党をつくることに奔走し、元首相が新しい政党をつくっては分裂させる政争に明け暮れている。
そうなると、ウイルスに対応する時間などなくなってしまう。
我々がしっかり認識すべきは、このウイルスが世界各国の政府がどこまで機能しているかを暴き、実態を教えてくれる、一種の「リトマス試験紙」となっている事実だ。
このウイルスは国家と政府の本当の姿、真実を教えてくれるのだ。
イランの失敗の本質
イランに目を移してみよう。
他国と比べて中国とそれほど接点がなかったのに、感染は猛烈に拡大している。
イランで判明したのは、政府の完全に無責任な態度だ。
彼らはウイルス騒ぎがあるのに、巡礼を止めなかったからである。それは、ジャムギャランという場所のモスクの近くにある井戸への巡礼である。
テヘランから南に120kmほど離れたゴム省にあり、彼らの信じるイスラム教の一派であるシーア派の聖地である。
このモスクの井戸は12番目のイマーム、つまり最後の使徒のイマーム・マハディが「お隠れ」になった場所で、いつの日か世の中を救うために復活すると信じられており、そこで祈れば健康になると言われる。
この聖地に毎日、巡礼者たちがイラン中から続々とバスを連ねてやってきている。
新型コロナウイルスがイランで最初に確認されたとき、何人かのイラン国内の医者が「この巡礼は止めたほうがいい」と進言した。
巡礼者が来て、モスクでそれを迎える人たちは、宿や食事を提供して生活している。
巡礼に関係する仕事を生業としている人たちが大勢いる。
しかし、このモスクのトップであるイマーム(導師)は、巡礼を止めてはいけないと主張した。
ウイルスの拡大という観点から見れば、これほど好都合な場所はない。
イラン全土のみならず、文字どおり世界各地から人々が巡礼にやってくるからだ。
ジャムキャラムは、イラン各地にウイルスを送り届ける完璧な場所となる。
巡礼者はこの場所に集まり、巡礼を済ませ、それぞれの家に帰る際にウイルスを持ち帰る。
モスクのイマームはどのような説明をしていただろうか?
この場所は「奇跡の場所」だから、ここに来れば病気になるはずがない、むしろ病気が治るはずだと主張した。
もしあなたがウイルスに感染していても、ここに来れば治る。
なぜなら、十二番目のイマームがあなたを守ってくれるからだというのだ。
この例でわかるのは、国家と政府が狂信的な宗教を信じているからこそ、異常な数のCOVID-19の感染者を出している事実である。
習近平の致命的な間違い
国と政府の「本当の姿」をウイルスが最初に暴いたのは、当然のことながらウイルスが最初に流行した武漢のある中国だ。
武漢で発生したウイルスの由来は生物兵器の研究所と言われるが、真実はわからない。
おそらく動物市場ではないだろうが、とにかくその広がり方は非常に速く、一般的な風邪やインフルエンザとは桁違いだ。
この新型コロナウイルスは新参者のため、人間側が免疫による抵抗力をまだもっていない。
人類は何百万年も蓄積してきた免疫をもっているが、今回のコロナウイルスはまったく新しいため、抵抗できないのだ。
最初にこのウイルスの危険性を発見し、警告した武漢の若い医者がいた。
彼は新しいウイルスに気付き、同僚たちに知らせて情報が広まったが、警察は「治安に影響を与えるから黙れ」と言ったのだ。
武漢で興味深いのは、大規模な新年会、万家宴が開催された事実だ。市当局としては中止にしたくなかった。
このランチパーティーは超大規模なもので、なんと4万人が同じ場所で昼食をともにする一大イベントだった。
市当局は、コロナウイルスのためにキャンセルするつもりはなかった。
4万人分の食材を無駄にしたくなかったからだ。
ここにウイルスが入り込めばどうなるか。
彼らは万家宴を中止にしたくなかったために、結果的に武漢中にウイルス爆弾をばらまき、世界に広めることになった。
このパーティーが開かれたのは1月18日だったが、それから数日間で武漢には新型コロナウイルスが充満することになった。
そして、ここで習近平の出番となる。
習近平は、ウイルス対処で二つの致命的な間違いを犯した。
第一に、新型コロナウイルスの存在を初期からすでに知っていたと発言したことだ。
これは彼としては実に奇妙なことで、政治的にはとんでもなく間抜けで致命的な間違いだ。
第二の大きな間違いは、彼が武漢そのものを隔離したことだ。
しかも退路や鉄道や空港を封鎖し、物理的に武漢市全体を隔離する前に、それを宣言してしまったことだ。
日本人なら、当局がこのようなアナウンスをすれば、仕方ないから命令に従おうということになるだろう。
ところが、中国人は違う。
彼らはこういうアナウンスがあれば逃げる。
実際に逃げ出した人数は500万人にのぼる。
いまにも爆発しそうな手榴弾のような存在だ。
彼らが逃げ出したため、中国だけでなく、世界にウイルスが広まってしまったのだ。
これは習近平が責任を負うべき大失敗だ。
結果として、ウイルスは中国の政治体制の二つの大きな弱点を暴くことになった。
一つ目は、地方政府が常に真実を隠そうとするということだ。
彼らは隠すことに集中して、問題に対処しようとしない。
あなたが「火事だ、火事だ!」と叫んだとしよう。
ところが当局側は、「うるさい、黙れ!」と言って口を封じようとする。
これは中国全土に見られる政治体制の問題であり、弱点でもある。二つ目の問題は、習近平がアドバイザーをもっておらず、もしいたとしても、その進言を聞かないという点だ。
もちろん北京には感染症の流行に関して、世界でもトップレベルのアドバイザーがいるだろう。
私は1000パーセントの自信を持って言えることがある。
それは、このアドバイザーが習近平に対し、「武漢を隔離すると言わないでください」と進言したであろうということだ。
しかし習近平は専門家のアドバイスなどを聞かず、政治的な階梯(かいてい)をふっとばして武漢を隔離すると宣言してしまった。
しかも、彼はこれを武漢市に通告しておらず、いきなりアナウンスしたのである。
政府を信用しない中国人
このアナウンスがされたとき、武漢ではまだ道路も閉鎖されておらず、鉄道も動いていた。
ラジオやテレビの放送では「家から出るな」という知らせはあったものの、それを聞いた人々が一目散に逃げたのだ。
中国では、もし政府が「雨が降る」と言ったら、人々は傘を持たずに外に出る。
政府が「雨は降らない」と言えば、人々は急いで傘を用意するものだ。
彼らは政府を信用していないし、習近平も誰の意見も聞かないのである。
ここでも、新型ウイルスは真実を教えてくれた。
中国、イタリア、そしてイランのような国で一体何か起こっているのか教えてくれたのだ。
イランでは、狂信主義が人を殺している実態が暴かれている。
このような狂信主義は、中東全域の様々な場所でテロ組織や軍閥のような形で人々を殺している。
ジャムギャランのモスクは「ウイルス対策などしなくてもよい、この奇跡の場所に来ればウイルスも消滅する」と宣伝している。
これこそ狂信主義である。
ウイルスはこうして、その国の政府が真剣に対処しているかしていないか、誰がプロで誰がプロではないか、誰が狂信主義者で誰が人の話を聞かないかを、次々と暴く。
武漢で若い医者が「ヤバいウイルスが流行している!」と警告しているのに、市の当局者たちは聞く耳を持たない。
もし万家宴を中正したら、武漢の市長は責任をとらなくてはならなくなる。
冗談じゃない、という態度なのだ。
そういう意味で、今回のウイルスは我々に大きな教訓を与え、教育的な効果を持つ極めて興味深い現象と言える。
この稿続く。