以下は本日の産経新聞に、美しき勁き国へ、と題して掲載されている櫻井よしこさんの定期連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
見出し以外の文中強調は私。
中国の実相 米に直言を
米中対立の中で、岸田文雄首相には果たすべき重要な役割がある。
1000年以上の交流を通してわが国が見てきた中国の実相を、米国に直言すべき時だ。
シンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)で、米国のオースティン国防長官は、中国の李尚福国務委員兼国防相との会談を果たせなかった。
李氏は日本を含めた先進7力国(G7)の他の国防相らとは会談し、米国を排除した。
分断策は彼らの得意とするところだ。
中国はこの1年ほどで米国の対話要請を高官級で十数回、実務レベルで十回近く断ってきたとも伝えられた。
安倍晋三元首相は首相時代、G7首脳にどの国よりも長い中国との交流の歴史を持つ立場から中国の考え方を説明したという。
最初はあまり耳を傾けなかった首脳たちは香港弾圧、ウイグル人ジェノサイド(大量虐殺)、南シナ海の軍事拠点化などを見て、警戒し始めた。
シンガポールで米中国防相会談は実現しなかったが、米中央情報局(CIA)のバーンズ長官が5月に訪中していたことが明らかになった。
6月2日、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担)は「米国はロシアや中国を抑止するために核戦力を増強する必要はない」、中露との核軍縮協議については「無条件で臨む用意がある」と語った。
米中対話は多層的に進みつつあり、バイデン米大統領はその先を求めて宥和策をとろうとしているのだ。
だが、宥和策は危ういと長年外交を担った首相は、日本の体験を基に米国に直言すべきだ。
第2次安倍政権発足時、中国は日中首脳会談開催の条件として靖国神社に参拝しないことなどを要求した。
安倍政権は「対話の扉は常に開いている」としながらも、条件付き会談は受け入れないと固く拒否し続けた。
ついに習近平国家主席が屈して、初めて条件なしの日中首脳会談が実現した。
彼らは必要と思えば会う。こちらが懇請すれば、要求を強める。
バイデン氏はG7広島サミットで中国との雪解けは近いと言った。
力を信奉する中国との雪解けが友好的で物分かりのよいアプローチによってもたらされることはない。
懇願、宥和、希望的観測ではなく、強い意志と力の誇示によってのみ、緊張緩和は実現する。
ロシアのウクライナ侵略に至る過程で、バイデン政権は2021年晩秋から22年2月にかけてインテリジェンス情報も含めて中国に渡し「ロシアに侵攻を思いとどまらせてほしいと懇願し、中国はそれら全てを退けた」と米紙ニューヨーク・タイムズが報じた。
バイデン政権が繰り返すこの宥和策は間違いだと、日本の国益のためにも、米国に忠告するのが安倍氏とともに中露外交を担ってきた岸田首相の責任ではないか。
米国が中国に繰り返し会談を求める理由は何か。
中国がロシアに善意の働きかけをしてウクライナ侵略戦争の和平交渉および停戦を実現させたいという期待ゆえか。
成功すればバイデン米大統領の得点となり、大統領選挙での立場も強くなるだろう。
しかし、中国は明らかにロシアの側に立っている。
さらにロシアの疲弊を中国の利益と受けとめ、中国の影響力強化に向けて世界戦略を進めている。
6月1日、南アフリカで開催したブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5ヵ国(BRICS)の外相会合は、米ドルに代わる世界の基軸通貨の剔出や加盟国の大幅増加が論じられた。ヵ
BRICSは世界人口の42%、国内総生産(GDP)は33%を占めるとされるが、加盟国を増やして先進7ヵ国(G7)に匹敵する勢力の剔出をもくろむのが中国だ。
中国がロシアと距離をとることはないと考えるべきだ。
それより前の3月、モスクワでの中露首脳会談で、習近平国家主席はロシアとは「同盟以上に密な仲」だと語り、ロシア側に立つ姿勢を示した。
現在、世界で起きている大変化を中露はさらに促進するともうたった。
中国が米国に代わって世界秩序を創り、その守護者となる。
中国が支配する世界「パックス・シニカ」の到来を狙っているのが見てとれる。
力を信奉する中国を動かすには宥和(ゆうわ)的アプローチは効かない。
強い決意と強い力を示さなければ危うい。
そのことを繰り返し、世界情勢が大きく変わるこの大事な時期にきちんと伝えることが世界への大きな貢献になる。
G7首脳は広島サミットでウクライナ支援を強めていくと結束した。
わが国は自衛隊の古い車両約100台と非常食約3万食を贈ると決めたが、ウクライナという国、ウクライナ戦争の意味を、改めて考える必要がある。
ウクライナを支えることは、民主主義と自由を守るだけではない。
日本と台湾を守ることだ。
ロシアの価略を成功させて中国にロシアと同じ侵略戦争をさせては、日台は悲惨な状況に陥る。
米紙ウォールストリート・ジャーナルの外交問題コラムニストとして知られるウォルター・ラッセル・ミード氏がウクライナは第二のイスラエルになると書いていた。
彼らはイスラエルのように、これから幾世代も、どの国よりも固い意志をもって、ロシアと対峙(たいじ)する国になる。
決して諦めず、ロシアを阻止する。
米欧にとってこれ以上ない心強い同盟国となる。
だから今、強く支えよ、というのだ。
強い意志を日本も持たなければならない。
中国にいかなる侵略も認めないと示すために、わが国は2つのことをしなければならない。
まず、ウクライナにより幅広く、より強力な支接を実施すべきだ。
次に、中国の脅威に対処するために、まともな民主主義国として、まともな正規軍を持たなければならない。
憲法改正が必要なゆえんだ。
それもできないのでは日本国を守ることも難しいだろう。
憲法改正こそ、岸田文雄首相の歴史的使命である。