以下は昨日発売された月刊誌「正論」の巻頭を飾る、兼原信克・元国家安全保障局次長と杉山大志キャノングローバル戦略研究所研究主幹の対談特集からである。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読。
日本のみならず世界中の先進諸国は、これまでの自分達の愚劣さについて、暗澹たる思いを抱くはずである。
月刊誌「正論」は本稿を含む本物の論文が満載されていながら、何と!950円(税込み)なのである。
本誌も、本ほど安いものはない、を実証している。
活字が読める日本国民全員は最寄りの書店に購読に向かわなければならない。
何故なら、そうしなければ、貴方は日本と世界について無知蒙昧な人間になるからである。
見出し以外の文中強調は私。
有事にはたちまち飢える都市住民
杉山
エネルギーが国の根幹だというのはおっしゃる通りで、エネルギーが断たれると、たちまち食料も干上がってしまいます。
食料を1カロリー生産するために、エネルギーはその10倍も使っているのです。
何に使うかといえば農業機械もありますし、肥料や農薬も化石燃料からつくられています。
もちろん物流や冷蔵などもあり、日本のエネルギー消費の3分の1程度が食料関係ともいわれます。
エネルギーがショートしてまず何か起きるかといえば、物が運べなくなって都市の中が飢餓状態になるでしょう。
ウクライナ戦争のように長引くことになれば、農業機械も動かせなくなり、肥料に至っては日本はほとんど輸入ですし、その備蓄も非常に心もとないのが現状です。
最近、自衛隊の「継戦能力」が話題になっていますが、日本は食料もなければ肥料もエネルギーもない、そういう状態ですから、国全体の継戦能力という観点から考えなければ。
兼原
肥料は昨年、制定された経済安全保障推進法の中の「特定重要物資」に入っています。
杉山
入ってはいるのですが、まだ種類も量もわずかなのでこれからの課題が大です
兼原
そもそも日本は島国ですから、すべてを自給することは不可能です。
自給だけではないから1億2000万の人を養えている。
自給だけだった江戸時代は3000万人ですからね。
日本の食料・エネルギー安保の根幹中の根幹はシーレーンであって、これを切られたら日本は負けで、いかんともしがたい。
杉山
それでも脆弱性をつくらないことが重要で「豊富な貯えがあるから一年くらいは大丈夫だぞ」という姿勢を見せておけば…。
兼原
それだけ頑張れば、その間にアメリカが敵海軍をたたきつぶしてくれるでしょう。
杉山
敵が「1ヵ月で勝てる」と思ったら…。
兼原
そうなれば当然、仕掛けてきますね。
エスカレーション・コントロールという考え方があって、やられたらやり返せるところには仕掛けてこない、ということです。
日本の国会での議論というのは面白くて、土下座して謝ればやられない、という議論が大真面目になされていますが、そんなことはありません。
土下座して謝ったら蹴り殺されるかもしれない。
食料自給率の問題にしても、いま農業従事者の平均年齢は68歳と高齢化が進んでいます。
この国の農業をどうするかを真剣に考えねば。
オランダやニュージーランドなど、生まれ変わっている農業国はいくらでもあります。
日本も、農林水産物の輸出額が昨年は1兆円を超えました。
本当はもっと頑張れるはずです。
農協はこれまで日本の農業を支えてきましたが、地方に行ってみるとほとんど銀行化していたりします。
漁業も同様で「何かあれば漁業補償でおカネがもらえるから」みたいな話になっている。
日本の農林水産業は農政・漁政を根本から考えなければ、自給率の向上は望めません。
杉山
食料自給率については、実はエネルギーをふんだんに使った上での自給率であり、有事を想定した食料自給率になっていません。
その食料をどうやって運んでくるか、生産の際に農業機械を動かす油がなくなったらどうするか、肥料が入ってこなかったらどうするか、が度外視されているのです。
兼原
有事に備えたシミュレーションが必要でしょう。
地震に関しては、関東大震災が起きた9月1日に全閣僚を集めて、防災服を着てもらって2時間みっちり訓練をします。
年に1回、リアルにやっていますので、官僚が用意したシナリオもあり、閣僚もおおよその流れが理解できます。
しかし有事については、国民退避から始まって、杉山さんがおっしゃるエネルギー自給とか食料自給とかという一番初めに出てくるべき話が考えられていない。
シミュレーションを繰り返せば「あれをやらねば、これもやらねば」という点が出てくるのですが、有事の話はさわるのも嫌だ、となってしまっている。
ここを何とかしないといけません。
いまはエネルギーや農業の話には火がついておらず、まだ国民保護をどうするかという議論です。
沖縄県の先島諸島からどう逃げるかという話の段階ですが、本土に逃げてきても食料がないかもしれない。
杉山さんがおっしゃるように、こういう話も全部考えなければいけません。
この稿続く。