第2章 【暗雲】
翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
やはり緊張しているのか、眠りが浅かったようだ。
「ま、最近は歳のせいで早く目が覚めるのが当たり前だけど」と笑いながら時計を見た。
3:30
「ん?」
もう一度見た。
3:30
「えーーーーっ!?」
「嘘だろーー!1時間30分も寝坊した!?」
慌てて飛び起きた。
なんで目覚ましは鳴らなかったんだ?寝ぼけて止めたのか?
なんでかは分からないが早く準備をしてシャトルバスに乗らなければ!
スタート地点へ向かうシャトルバスは3:30から定員になり次第順次発車になっているが
実際は3時には一番バスは発車する。後のバスに乗ると到着してから降りるのに時間がかかるので
最初のバスに乗れるよう2時起きにしてたのに大失敗だ。
急いで着替えようとするが暗くて分からない。
LEDランタンを持ってきているはずだけど見当たらない。
あちこちひっくり返していたら、色んなものが入り乱れますます分からなくなってしまった。
「落ち着け、まだ間に合う」自分に言い聞かせるようにつぶやきウエアを探す。
あった!
着替えて車外に出るとすでに明るくなり始めている。
時計を見るともう4時を回っている。
「まずいぞ~」
心臓がバクバクしてきた。
正確には分からないが、スタート地点までバスで20分ぐらいか。
向こうについてからの準備や手荷物預けの時間もいるのでギリギリだ。
急いで、手荷物を探し確認。
よし、大丈夫!
行こうとして、ランチップを付けたシューズに履きかえてないことに気付いた。
「やばい、やばい、これが無ければ意味がない」
シューズに履き替え、シャトルバス乗り場へと急ぐ。
着いたけど今度はバスが見当たらない。
「え!?何で?」
周りを見渡すがランナーは誰もいない。
もう、みんな行ってしまったのか?
腕時計を見ると4:30を過ぎている。
「えーーーっ、どうしよう?スタートに間に合わない!」
大会スタッフに聞こうと探すが、これまた姿が見えない。
「何でだーーーーーーーーーっ!!!!!」
・
・
・
・
・
真っ暗な中、ボンヤリと車の天井が見える。
「夢…か…」
私は「ふぅーっ」と大きなため息つき、心の底から「良かったぁ~」とつぶやいた。
念のため、時計を確認。
0時をちょっと回ったぐらいだった。
テレビのドラマ等ではよくあるシーンだが、まさか自分の身に起きるとは。
ゆっくりと体を起こし、もう一度ため息をついた。
「なんか嫌な予感がするなぁ…」
少し汗をかいたようで、のども乾いていた。
傍らにあったOS-1のペットボトルに手を伸ばし、一口飲んだ。
「せっかく起きたし、シッコに行っとくか」
私は車から外に出た。
駐車場は静まり返り、蛙の合唱も止んでいた。
時が止まったようなその中で、遠くで駐車場誘導員が手にしているLED誘導灯が怪しげに赤く明滅していた。
仕事とはいえ、一晩中そこにジッとしているのは大変だ。頭が下がる思いがする。
駐車場を抜け会場内施設のトイレへ行った。
真っ暗中、トイレの明かりだけが点いている。
用を足し、車に戻った。
あと2時間あまり、もうひと寝入りしよう。
今度は変な夢は見ないようにお願いしたいもんだ。
目覚ましが鳴り、再び目が覚めた。
今度は夢の世界ではない。
おもむろに起き上がり、外に出る。
少し肌寒い。
周囲の車を見渡すと準備を始めているランナーもいる。
空を見上げると満天の星だ。
「曇りじゃないのか~暑い日になりそうだな」小声でつぶやいた。
ボーっとしている暇ない。
まずはトイレだ。
トイレ渋滞に巻き込まれないよう、今のうちにシッコじゃない方をしておかねば。
ヘッドランプを手にトイレへ向かった。
既に数人の列ができている。施設のトイレは1つしかないのでこんな時間でも並ぶことになる。
私はその横を通り、仮設トイレへと向かう。
こちらは誰もいない。
なぜなら照明がないからだ。
それが分かっていたのでヘッドランプを持ってきたのだが正解だった。
昔、友人から「用意周到なヤツ」と言われたことがある、やり過ぎて荷物が多くなることもあるが。
さっさと済ませて車に戻りウエアに着替え、靴もチップ付きのに履き替え。
持っていくものの確認をし、準備は完了。
ブログとFBの更新をしてシャトルバスの待機場へと向かった。
時間は2:45分頃。
既に先頭のバスにはランナーが乗車を始めている。
私も列に並び、無事に1番バスに乗り込んだ。
10数分でバスは満車となり、やがてスタート地点へ向けて発車した。
バスの中は数組の人が話すだけで、静かだ。
目を閉じてじっとしている人、スマホをいじっている人、朝食を食べている人
みなそれぞれ、もうじき始まる大レースに思いを馳せているようだ。
私の隣に座った男性はスマホをいじっているで、ちょっと横目で見たら天気予報を見ているようだった。
私も天気は気になったので、どんな具合か聞こうかと思ったが、覗き見していたのがバレるので我慢した。
移動の合間に私も朝食をとることにした。
大きなレジ袋の中にすべてのものを入れていたのでゴソゴソとおにぎりを探した。
その時、私は大変な事態が生じていることに気付いた。
なんと、いちごマスクの骨組みである竹ひごが1本折れている…。
目の前が一瞬真っ白になった。
ニューいちごマスクは軽量化のため、強度の面で問題があったのに一つの袋に全部詰め込んだのがいけなかった。
またしても嫌な予感をさせる出来事の発生だ。
「どうしたものか…」
ここには道具も材料もない、修理するのはかなり難しい。
あれこれ考えたが、よい解決法は思い浮かばない。
最悪、形はちょっと崩れるが使えないわけではないので、その時は諦めてそのまま走ればいいと、おにぎりを食べながら思った。
やがて、バスはスタート地点のウィナスに到着。
バスの運転手さんにお礼を言って降り立った。
一番乗りなので会場にはまだ人は少なく閑散としていた。
私は最後の準備をするために更衣室へと向かったが男女別の区分けがないようだ。
男性は良いとして、女性は困るんじゃないかな?それとも他にあるのだろうか。
ま、そんなことはどうでもいい。早く準備しなければ。
ランニングタイツを脱ぎ、筋肉痛予防にサロメチールを足全体に塗りこむ。
次に膝と足首にテーピングをし、携行品を確認して準備は完了。
後は竹ひご製の骨が折れた、いちごマスクをどうするか。
その時良い考えが浮かんだ。
竹ひごを通すパイプの差し込みの所で折れているので、パイプの位置をズラシ
折れている部分をパイプの中に入れてしまえば良いのではないか?
早速やってみるとバッチリOKだった。
これで一安心、私は会場へと向かった。
会場にはすでにたくさんのランナーが集まっていた。
会場内をうろついているとラン友や「カル友」メンバーの方とあったのでちょっと立ち話。
やがて開会式が始まった。
名物の阿蘇市長による応援歌も健在だ。
今年は「ねぇ、そうだろ~♪」という歌詞の歌だった。私はよく知らないがファンキーモンキーベイビーズというグループの歌らしい。
そして、選手宣誓。
今年はご夫婦による選手宣誓。
御主人が一言いうと、奥さんが「一生懸命」と言いながらその言葉を書いたプラカードを頭上に掲げ
それを繰り返す、というパフォーマンスで会場の笑いを誘っていた。
なかなか芸達者なご夫婦だ。ランナーの緊張も和らいだのではないだろうか。
開会式が終わり、スタート地点への移動が始まった。
私も最後のトイレを済ませ、スタート地点へ向かう。
まだ薄暗い中、たくさんのランナーが集まっている。静かな阿蘇の山あいでそこだけ異常な雰囲気だ。
私は仮装ランナーの掟に従い最後尾へと向かう。
レジ袋の中からいちごマスクを取り出し、いちごマンに変身した。
今回はこの阿蘇カルデラ用に新調した「いちごマンV3」での挑戦だ。
そして、ランナーたちの期待と不安の中、レースはスタートした。
(次回、第3章【伏兵と屍峠】へ つづく)
注:文中、私以外の方の氏名は仮名です。
ほぼ事実ですが、一部脚色、記憶のあいまいさから事実と違ったり、
場面が前後している場合があります。
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翌朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
やはり緊張しているのか、眠りが浅かったようだ。
「ま、最近は歳のせいで早く目が覚めるのが当たり前だけど」と笑いながら時計を見た。
3:30
「ん?」
もう一度見た。
3:30
「えーーーーっ!?」
「嘘だろーー!1時間30分も寝坊した!?」
慌てて飛び起きた。
なんで目覚ましは鳴らなかったんだ?寝ぼけて止めたのか?
なんでかは分からないが早く準備をしてシャトルバスに乗らなければ!
スタート地点へ向かうシャトルバスは3:30から定員になり次第順次発車になっているが
実際は3時には一番バスは発車する。後のバスに乗ると到着してから降りるのに時間がかかるので
最初のバスに乗れるよう2時起きにしてたのに大失敗だ。
急いで着替えようとするが暗くて分からない。
LEDランタンを持ってきているはずだけど見当たらない。
あちこちひっくり返していたら、色んなものが入り乱れますます分からなくなってしまった。
「落ち着け、まだ間に合う」自分に言い聞かせるようにつぶやきウエアを探す。
あった!
着替えて車外に出るとすでに明るくなり始めている。
時計を見るともう4時を回っている。
「まずいぞ~」
心臓がバクバクしてきた。
正確には分からないが、スタート地点までバスで20分ぐらいか。
向こうについてからの準備や手荷物預けの時間もいるのでギリギリだ。
急いで、手荷物を探し確認。
よし、大丈夫!
行こうとして、ランチップを付けたシューズに履きかえてないことに気付いた。
「やばい、やばい、これが無ければ意味がない」
シューズに履き替え、シャトルバス乗り場へと急ぐ。
着いたけど今度はバスが見当たらない。
「え!?何で?」
周りを見渡すがランナーは誰もいない。
もう、みんな行ってしまったのか?
腕時計を見ると4:30を過ぎている。
「えーーーっ、どうしよう?スタートに間に合わない!」
大会スタッフに聞こうと探すが、これまた姿が見えない。
「何でだーーーーーーーーーっ!!!!!」
・
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真っ暗な中、ボンヤリと車の天井が見える。
「夢…か…」
私は「ふぅーっ」と大きなため息つき、心の底から「良かったぁ~」とつぶやいた。
念のため、時計を確認。
0時をちょっと回ったぐらいだった。
テレビのドラマ等ではよくあるシーンだが、まさか自分の身に起きるとは。
ゆっくりと体を起こし、もう一度ため息をついた。
「なんか嫌な予感がするなぁ…」
少し汗をかいたようで、のども乾いていた。
傍らにあったOS-1のペットボトルに手を伸ばし、一口飲んだ。
「せっかく起きたし、シッコに行っとくか」
私は車から外に出た。
駐車場は静まり返り、蛙の合唱も止んでいた。
時が止まったようなその中で、遠くで駐車場誘導員が手にしているLED誘導灯が怪しげに赤く明滅していた。
仕事とはいえ、一晩中そこにジッとしているのは大変だ。頭が下がる思いがする。
駐車場を抜け会場内施設のトイレへ行った。
真っ暗中、トイレの明かりだけが点いている。
用を足し、車に戻った。
あと2時間あまり、もうひと寝入りしよう。
今度は変な夢は見ないようにお願いしたいもんだ。
目覚ましが鳴り、再び目が覚めた。
今度は夢の世界ではない。
おもむろに起き上がり、外に出る。
少し肌寒い。
周囲の車を見渡すと準備を始めているランナーもいる。
空を見上げると満天の星だ。
「曇りじゃないのか~暑い日になりそうだな」小声でつぶやいた。
ボーっとしている暇ない。
まずはトイレだ。
トイレ渋滞に巻き込まれないよう、今のうちにシッコじゃない方をしておかねば。
ヘッドランプを手にトイレへ向かった。
既に数人の列ができている。施設のトイレは1つしかないのでこんな時間でも並ぶことになる。
私はその横を通り、仮設トイレへと向かう。
こちらは誰もいない。
なぜなら照明がないからだ。
それが分かっていたのでヘッドランプを持ってきたのだが正解だった。
昔、友人から「用意周到なヤツ」と言われたことがある、やり過ぎて荷物が多くなることもあるが。
さっさと済ませて車に戻りウエアに着替え、靴もチップ付きのに履き替え。
持っていくものの確認をし、準備は完了。
ブログとFBの更新をしてシャトルバスの待機場へと向かった。
時間は2:45分頃。
既に先頭のバスにはランナーが乗車を始めている。
私も列に並び、無事に1番バスに乗り込んだ。
10数分でバスは満車となり、やがてスタート地点へ向けて発車した。
バスの中は数組の人が話すだけで、静かだ。
目を閉じてじっとしている人、スマホをいじっている人、朝食を食べている人
みなそれぞれ、もうじき始まる大レースに思いを馳せているようだ。
私の隣に座った男性はスマホをいじっているで、ちょっと横目で見たら天気予報を見ているようだった。
私も天気は気になったので、どんな具合か聞こうかと思ったが、覗き見していたのがバレるので我慢した。
移動の合間に私も朝食をとることにした。
大きなレジ袋の中にすべてのものを入れていたのでゴソゴソとおにぎりを探した。
その時、私は大変な事態が生じていることに気付いた。
なんと、いちごマスクの骨組みである竹ひごが1本折れている…。
目の前が一瞬真っ白になった。
ニューいちごマスクは軽量化のため、強度の面で問題があったのに一つの袋に全部詰め込んだのがいけなかった。
またしても嫌な予感をさせる出来事の発生だ。
「どうしたものか…」
ここには道具も材料もない、修理するのはかなり難しい。
あれこれ考えたが、よい解決法は思い浮かばない。
最悪、形はちょっと崩れるが使えないわけではないので、その時は諦めてそのまま走ればいいと、おにぎりを食べながら思った。
やがて、バスはスタート地点のウィナスに到着。
バスの運転手さんにお礼を言って降り立った。
一番乗りなので会場にはまだ人は少なく閑散としていた。
私は最後の準備をするために更衣室へと向かったが男女別の区分けがないようだ。
男性は良いとして、女性は困るんじゃないかな?それとも他にあるのだろうか。
ま、そんなことはどうでもいい。早く準備しなければ。
ランニングタイツを脱ぎ、筋肉痛予防にサロメチールを足全体に塗りこむ。
次に膝と足首にテーピングをし、携行品を確認して準備は完了。
後は竹ひご製の骨が折れた、いちごマスクをどうするか。
その時良い考えが浮かんだ。
竹ひごを通すパイプの差し込みの所で折れているので、パイプの位置をズラシ
折れている部分をパイプの中に入れてしまえば良いのではないか?
早速やってみるとバッチリOKだった。
これで一安心、私は会場へと向かった。
会場にはすでにたくさんのランナーが集まっていた。
会場内をうろついているとラン友や「カル友」メンバーの方とあったのでちょっと立ち話。
やがて開会式が始まった。
名物の阿蘇市長による応援歌も健在だ。
今年は「ねぇ、そうだろ~♪」という歌詞の歌だった。私はよく知らないがファンキーモンキーベイビーズというグループの歌らしい。
そして、選手宣誓。
今年はご夫婦による選手宣誓。
御主人が一言いうと、奥さんが「一生懸命」と言いながらその言葉を書いたプラカードを頭上に掲げ
それを繰り返す、というパフォーマンスで会場の笑いを誘っていた。
なかなか芸達者なご夫婦だ。ランナーの緊張も和らいだのではないだろうか。
開会式が終わり、スタート地点への移動が始まった。
私も最後のトイレを済ませ、スタート地点へ向かう。
まだ薄暗い中、たくさんのランナーが集まっている。静かな阿蘇の山あいでそこだけ異常な雰囲気だ。
私は仮装ランナーの掟に従い最後尾へと向かう。
レジ袋の中からいちごマスクを取り出し、いちごマンに変身した。
今回はこの阿蘇カルデラ用に新調した「いちごマンV3」での挑戦だ。
そして、ランナーたちの期待と不安の中、レースはスタートした。
(次回、第3章【伏兵と屍峠】へ つづく)
注:文中、私以外の方の氏名は仮名です。
ほぼ事実ですが、一部脚色、記憶のあいまいさから事実と違ったり、
場面が前後している場合があります。
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