この2月24日にドナルド・キーンさんが亡くなったことが報道されました。96歳とのこと。東日本大震災後に日本国籍を取得し、日本国内で執筆活動をしていました。松尾芭蕉の研究家として知られ、『おくのほそ道』も英訳されています。
ドナルド・キーンさんの著作で私の手もとにあるのは『百代の過客 日記にみる日本人』(金関寿夫訳 講談社学術文庫)と『おくのほそ道』(ドナルド・キーン訳 同)の2冊。あらためてページをめくってみました。『百代の過客』は平安時代から徳川時代までに書かれた日記を紹介し、そこから日本人像をあぶり出す試みですが、これだけの古典を読みこなし英訳するエネルギーには敬服します。日本人でも古文書を読みこなせる人はそういません。
そのなか『海道記』について書かれていますので、ちょっと紹介させていただきます。
京都、鎌倉間の旅を扱った日記の中で、私のお気に入りは、『海道記』である。『十六夜日記』の方が有名だし、『海道記』よりもよく書けている日記もほかにあるのだが、私はこれをとる。平安時代の日記を読んだあとで『海道記』を読むと、日本語の文体に起こった大きな変化に、私たちはすぐに気づく。(一部略)『海道記』には、音読みの熟語が多いばかりか、中国の詩や故事から引いてきた語句がぎっしり詰まっている。云々・・・。
『海道記』は作者は不明ですが、承久の乱が終わり世の中が落ちつきかけた1223年4月に京都から鎌倉に下向し5月に帰京するまでの旅日記です。ちょっと岩波文庫の『海道記』から稲村ケ崎の箇所にふれてみましょう。
稲村と云所あり。嶮(さかし)岩の重りふせる山の迫(はざま)をつたひ行(ゆけ)は、岩にあたりてさきあかる浪、花の如く散りかかる。
ドナルド・キーンさんは別の箇所で文体の特徴を伝えているのですが、なんとなく雰囲気は伝わってきます。そのほか『十六夜日記』、『とわずがたり』などの日記も紹介していますので是非読んでみてください。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます