中島敦の短編小説『山月記』の書き出しは次のように始まります。
隴西の李徴は博学才頴、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
この『山月記』の内容については多くはふれませんが、巻末の解説によれば「詩人になりそこねて虎になった哀れな男の物語」ということらしいです。ただし円覚寺妙香池の虎頭岩とはなんら関係ありません。単なる虎つながりで取り上げました。中島敦は享年33歳。その格調高く芸術性のある作品の評価は彼の死後に高まったようです。このブログにおいても泉鏡花のところで一度取り上げています。
ところで本題です。写真はその虎頭岩を写したもの。円覚寺は幾度となく拝観し、この虎頭岩もみていますが、今回のようにはっきりと虎の顔がイメージできたのは初めてでした。立春を過ぎ、少し力強くなった陽光がつくりだした影のせいで、口、鼻、少し瞑った目そして耳の形もはっきりしています。妙香池の畔で休む虎の姿が、人間の記憶をすっかり無くし、虎そのものになった李徴の姿に重なりました。そして妙香は「えもいわれれぬ妙なる香、また、仏の法の功徳をたとえていう語(日本国語大辞典)」の意味です。虎の姿も、なんともうっとりして休む姿に見えてきました。またまた妄想です。
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